05
久しぶりの非番の日、冷蔵庫がいつの間にか空っぽになっていたことに気づいた私は、市場で色々と買い込んで、思いの外大量になってしまった荷物を抱えてひいひい言いながら帰路を歩いていた。まだ家までしばらくあるのに、腕がぷるぷるしてきた。日頃の運動不足が祟ったなぁ。なんて嘆きながら歩いていたら、突然視界を塞いでいた荷物が無くなって、嘘みたいに軽くなる身体。

「よっ、ナマエちゃん。すげぇフラフラしてたけど大丈夫か?」
「あ、え、レノさん!?」

その荷物を奪ったのは紛れもなくレノさんで。軽々とそれを抱えなおして、小馬鹿にしたように笑われた。

「む、今バカにしましたね?」
「はは、したかもな」
「鍛えてるレノさんと一緒にしないで下さい!…って、レノさんどうしてこんなところに?」
「エッジの巡回中だぞ、と。っつっても、これと言って仕事がねぇだけだけどな」
「そうなんですね、でもそれだけ平和ってことですよ」
「まあな。で、これ家まで持って帰るのか?」
「あ、はい、運動だと思ってがんばりま…あの?」

まだ荷物を抱えたままのレノさんに手を差し出してそれを受け取ろうとしたけど、すたすた先を歩き出してしまったレノさん。びっくりして、慌ててその背中を追い掛ける。

「レノさん、荷物…!」
「善良な市民を助けるのも仕事の内だぞ、と。ほら、行こうぜ」
「いいんですか…?ありがとうございます、レノさん」

口角を上げて笑ったレノさんに大人しく甘えることにして、並んで歩く。孤児院で会うことはあっても、こうして外で会うことなんてないから何だか変な感じがする。あ、そうだった。

「レノさん、リースありがとうございました!」
「ん?…あー、はは、柄じゃねーことするもんじゃねえな」
「え、なんでですか?とっても上手でしたよ?」
「遅いっつってルードに怒られるは、リース作ってたっつったら鼻で笑われるは、散々だったぞ、と」
「それは…なんだかごめんなさい」

そっか、ルードさんに怒られちゃったんだ。それは悪いことしちゃったな、なんて思ってたらレノさんが笑った。

「俺が勝手にしたことだからいーんだよ。そんな顔するな、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ、と」
「もう、揶揄わないでくださいっ…!」

優しく細められたエメラルド色の瞳にうっかりドキドキしてしまう。レノさんは会ったときからこういう人だけど、私は言われ慣れてなくて毎回赤面してしまうのが悔しい。それを見てニヤニヤと笑うレノさんはちょっと意地悪だ。
そんな時、突然鳴り響いた着信音。それはレノさんの携帯からで、片手で荷物を抱え直して器用にスーツのポケットから携帯を取り出して耳に当てる。ごめんな、と口が動いて私はふるふると首を振った。内容を聞くのは良くないだろうから、少しだけ歩調を落とす。

「…なんだよ?…あ?…あぁ、……悪い……あぁ、わーったって。じゃな、イリーナ」

少しだけ聞こえてしまったレノさんの言葉に、内心ごめんなさいと謝りつつ思う。いまの、もしかして彼女さんかな。

「…っと、悪い悪い。ナマエちゃん?」
「あ、いえ!すみません、電話、ちょっとだけ聞こえちゃいました」
「んー?なに、妬いたのか?」
「やっ!?妬いてませんよ!」
「ふは、妬いてくれてもよかったんだぞ、と」

もう、またそうやって適当なこと言う。でも愉しそうに笑うレノさんが何だか子供みたいで可愛いかも、なんて。そんなこと言ったら怒られそうだから言わないけど。

「今のは後輩。サボってたのバレちまったから、ナマエちゃん送り届けたら戻んねーと」
「え?お仕事なかったんじゃ…」
「可愛い子がフラフラしてたんだ、ほっとけねーだろ?」

至って真面目な顔でそう言ったレノさんに目を丸くしたら、次の瞬間にはレノさんが破顔してまた揶揄われたんだと気付いた。頬を膨らませたら、可愛いだけだぞってニヤニヤされたからレノさんには勝てないって改めて思わされた。

それから暫く歩いて宣言通り私の家まで荷物持ちをしてくれたレノさん。荷物を受け取って部屋の中に置いて、またレノさんの元に戻る。

「レノさん、ほんとにありがとうございました。助かりました!」
「どういたしまして。礼はデートでいいぞ、と」
「えぇ?そんなのお礼にならないですよ。うーん、何かないかなぁ…」
「はは、楽しかったから気にすんな」
「…ふふ。はい、私も楽しかったです」

素直にそう答えたら、また瞳を細めて優しく笑ってくれる。そのまま手をヒラヒラと振って歩き出したレノさんの背中に向かって、思い出して口を開いた。

「レノさん!」
「んー?」
「今度のマロンズハウスの収穫祭、もしお時間あったら来てくださいっ」
「おー、約束な。そん時はルードも連れてってやるぞ、と」
「はい、お待ちしてますね!」

にっ、と笑ったレノさんに微笑み返して、私もレノさんに手を振ってから部屋に入る。

「…あー、くそ、いちいち可愛すぎんだよ」

そんなことをレノさんが呟いてたのは知らないまま。
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