04
数日後、予定通りクラウドさんが荷物を持ってマロンズハウスに来てくれた。見慣れない大型のバイクに子供たちは興味深々で、でもクラウドさんが無表情だからか遠巻きに様子を見ているのが面白い。

「クラウドさん!」
「待たせたな。中、一応確認してくれ」
「はいっ、…え?」
「俺が運ぶ。どこに持って行けばいいんだ?」

それなりの重さがあるだろう段ボールを受け取ろうとして、それを視線で制止されて。クラウドさんは軽々とそれを持ち上げて、案内しろとばかりに私を見た。

「あ、じゃあ…こっちの部屋にお願いできますか?」
「わかった」

先を歩いて、備品置き場になっている部屋にクラウドさんを案内して扉を開ける。荷物は机の上に置いてもらって、さっそく中身を確認してみる。

「……うん、大丈夫です!クラウドさん、ほんとにありがとうございました」
「いや、これが仕事だからな」
「ふふ、また何かあったらクラウドさんにお願いします」

そう言って笑ったら、クラウドさんも頷いて小さく笑ってくれた。

「あ、そうだ!クラウドさん、まだお仕事残ってますか?」
「今日はここで最後だ。どうかしたか?」
「お時間あるなら、お昼ご飯一緒に食べません?」
「昼?…いや、遠慮しておく」
「あっ、ご迷惑でしたよね。実はお弁当を沢山作りすぎてしまったので、お礼も兼ねて良かったらと思ったんです。すみません、気にしないでください」

えへへ、と苦笑いしてクラウドさんを見る。二日前に会ったばかりなのに、突然誘ったのはまずかったよね。いけないいけない、いつも子供たちと接してばかりいるから、こういうのが当たり前になってた。あれ、今クラウドさんの透き通る青い瞳が、迷うように揺れた気がしたけど。

「…そういうことなら、もらってもいいか?」
「え、あ、はい、勿論…?」
「依頼主から物品はもらわない主義なんだ。ただ、その弁当に罪はないからな」

なるほど、と理解する。ただでさえ見た目がいいクラウドさんだから、きっと他の依頼者さんから言い寄られたりだとかがあるんだろうな。でも気持ちを受け取るわけにはいかないから、いつも断ってるってことなのかな。美形だと苦労することもあるんだなぁ、なんて同情していたらクラウドさんが眉を寄せたから慌てて首を振った。

「それじゃあ、せっかくなので上に登りましょう!」
「上?」
「はい、マロンズハウスの上、意外と景色がいいんですよ」

子供たちには危ないからと立ち入り禁止にしている、屋上へと続く扉の鍵を開けてクラウドさんを促す。三階建てだからそこまで見晴らしがいいとは言えないけれど、そもそもの立地が高台にあるマロンズハウスの屋上からは意外とエッジが見渡せたりする。
持っていたハンカチを2枚広げて、そこにクラウドさんと並んで座る。それからお弁当の包みをあけてクラウドさんに差し出した。

「はい、好きなだけ食べちゃって下さい」
「すごいな、これ。あんたの分は?」
「クラウドさんが来る前に子供たちが焼いてくれたクッキーを食べ過ぎちゃって…。だから遠慮せず、どーぞ!」

小さくいただきます、と手を合わせたクラウドさんは意外にもお行儀が良くて笑みが零れる。

「…美味い」
「ほんとうですか?良かった、お口に合わなかったらどうしようかと思いました」

ぱくぱくとおかずを口の中に放り込んでいくのを見て、ほっと一安心。自分が作ったものを人に食べてもらうのってこんなにも緊張するんだ。
三分の二くらいをぺろりと平らげたクラウドさんの残りを私も食べて、お弁当は包に戻した。水筒の紅茶をクラウドさんに差し出したら、それを受け取ったクラウドさんがじっと私を見つめるから、なんだろうと首を傾げる。

「あんたの名前、ナマエ、だったか?」
「はい、ナマエで合ってます」
「ナマエ、弁当、美味かった」
「ふふ、それは良かったです!」

あまり言い慣れていないのか、少しだけ照れ臭そうにそう言ったクラウドさんに微笑み返して、誘ってよかったなとひとり思った。

「エッジにはいつから?」
「最初っからです。ミッドガルでも孤児院で働いてたんですけど、崩壊の時に院長先生と子供たちとなんとか逃げてきて、ここで孤児院を再建しました」
「…そうか。偉いな、あんたは」
「偉い、ですか?そんなことないですよ。みんなあの時は必死でした。星痕病の時も、苦しむ子供たちに私は何もしてあげられませんでしたし…」
「星痕病、か…」
「クラウドさん?」

どこか遠くを見て呟いたクラウドさん。その横顔は慈愛に満ちていて、愛しい人でも思い浮かべているかのような表情で。

「…いや、なんでもない。俺はそろそろセブンスヘブンに戻る。弁当、ありがとう」
「いえ、呼び止めてしまってごめんなさい。それじゃあ、また」
「ああ、またな、ナマエ」

穏やかに微笑んだクラウドさんに別れの挨拶をして、去っていく背中を見送る。余計なことを言ってしまったのかと一瞬ヒヤッとしたけれど、クラウドさん普通だったな。
依頼がない限りは会うことも無さそうだけど、また会えたらいいなぁ、なんて心の中で思いながら私も屋上を後にした。
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