12
「嬉しそうだな、ナマエちゃん」

無事収穫祭が終わった帰り道。自宅まで送ると言ってくれたレノさんの言葉に甘えて、ハウスからゆっくり並んで歩く小道。ルードさんはまた先に帰ってしまったらしい。レノさんが作ってくれたリースを、院長先生に許可を貰って持ち帰れることになって。それを大切に両手で抱えていたら、隣のレノさんが可笑しそうに笑った。

「だって、嬉しいですもん」
「なんで?」
「レノさんが作ってくれたリース、収穫祭が終わったら絶対家に持って帰ろうって決めてましたから」
「……、はは」

私の言葉に目を丸くしたレノさんが、たっぷりの間の後にどこか困ったように笑った。夕陽に照らされた髪がいつもより深紅に見えて、何故か胸がぎゅうっと締め付けられる。このまま夕暮れに溶けて、レノさんが消えちゃうんじゃないかなんて、有りもしないことを考えて。

「レノさん…あの、」
「ほら、家着いたぞ、と」

呼んだ名前は、レノさんのその言葉に遮られた。気付けばレノさんが言った通り、もう家は目の前にあった。ゆっくり歩いていたはずなのに、着いちゃった。それに、勘違いじゃなければ…態と遮られた、よね。なんだかいつもと様子が違うレノさんに胸がざわついて、思うより早く私は口を開いていた。

「レノさん、家に寄ってください」
「…っは?」
「シャツだけでも洗った方がいいです。汚しちゃったから」
「替えはいくらでもあるから気にすんな。…って、おい!」

まるで私らしくない行動。レノさんの腕を取って、家の扉を開けて中に入る。玄関で驚いたように固まるレノさんに、はっとして頭を下げた。

「っあ、ご、ごめんなさい…!」
「…ふ、ナマエちゃんにこんな大胆な一面があったとはなァ」
「ち、違います…!レノさんが、なんだか元気ない気がして…」

それにしても、強引に家に連れ込むのはどうなんだと今更になって後悔する。どうしよう、私…レノさんを困らせてる…。

「…ほんと、ナマエちゃんには敵わねえな」
「え…?」

そう言って哀しそうに笑ったレノさんに目を見開く。どうしてそんな顔するの、レノさん…。初めて見る表情に困惑して、ただエメラルド色の瞳を見つめる。

「独り言だぞ、と。とりあえず帰るわ。スーツはイリーナにでも洗わせる」
「え、でもっ、」
「んー?ナマエちゃん、俺に襲われたいのかよ?」
「…っ!?」

ニヤリと口角を上げて意地悪く笑ったレノさんに、顔に熱が集まる。襲うとか、そんな気さらさらないくせに…なんて思っても、口には出さなかった。いつの間にか、さっきまでが嘘みたいにいつも通りのレノさんがそこにいて、どれが本当なのかわからなくなる。

「っふは、んな警戒しなくても手は出さねえから安心しろよ、と」
「もう…子供だと思って揶揄ってますよね、レノさん…」
「……そうだったら、いいのにな」

ボソリと呟かれたその言葉は、私の耳には届かなかった。いつも飄々としていて、余裕を崩さないレノさんの知らない顔。理由を話してくれないのは、子供扱いされているから?出会った頃から助けてもらってばかりの私じゃ、頼りないから?それが何だか悔しくて、でもどうしたらいいのかわからなくて。今は、なんだかレノさんが遠く感じる。

「またな、ナマエちゃん」
「…はい」

引き留める術も、こんな気持ちが初めての私には分からない。レノさんが出ていった扉が閉まっていくのを呆然と見つめて、でも聞こえてきた声に私は目を見開いて完全に閉まる前の扉を手で抑えた。

「…なんで、あんたがここにいる?」
「あ?おまえ…」
「クラウドさん…!?」

慌てて飛び出した先、何故かクラウドさんがそこに立っていて。嫌悪感を剥き出しにしたような表情で、クラウドさんはレノさんを睨み付けていた。どういうこと?ふたりは知り合い?そんなことより、どうしてクラウドさんがここに?あまりの急展開に訳が分からず、険しい顔で睨み合うふたりを見つめることしか出来ない。

「…おまえこそ、なんでいんの?」
「あんたには関係ない。ナマエ、こいつと知り合いなのか」
「えっ?あ、はい…」
「…どういう関係だ?」
「それこそおまえには関係ねーだろ。…まぁ、おまえが想像してる通りだぞ、と」
「───っ、一体何を企んでいる?」

クラウドさんとレノさんの険悪な雰囲気に、口を挟める隙がない。それに、ふたりが何の話をしているのかが全く読めない。でも、仲が良くないことだけはわかる。なんとかして止めないと…。

「っは、人聞きわりーな、何も企んでねえよ」
「ならなんで、」
「ハイハイ、おまえに付き合ってられるほど暇じゃねーの、俺。ナマエちゃん、それじゃまたな」
「レノさん…?」

クラウドさんの言葉を遮って無理矢理話を終わらせて、レノさんは私に優しく笑いかけて足早にその場を去ってしまった。眉間にきつく皺を寄せたままのクラウドさんとの間に気まずい空気が流れる。何を言うべきか迷っていたら、クラウドさんに腕を取られて、家の中に押し込まれた───。
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