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「おかえり、クラウド。デートどうだった?」

セブンスヘブンに戻った途端、ティファが満面の笑みで尋ねてきた言葉に、盛大な溜息が零れた。

「ただ出かけただけだ。そんなんじゃない」
「それをデートって言うんじゃないの?」
「……部屋に戻る」
「もう…素直にならないと、ナマエさんに愛想尽かされちゃうんだからね」

すれ違いざま、呆れたようにティファがそう言ったのを右から左へ聞き流して、部屋に戻ってベッドへ身を沈めた。

「素直って、なんだ…」

2年前の旅で、仲間たちのおかげで自分を取り戻すことが出来た。でも、未だに自分がよく分からないと感じることがある。ナマエのことに関しては特にそうだ。ついさっきまで一緒にいた、あの人懐っこい笑顔が脳裏に浮かぶ。出会ってそれほど時間は立っていないはずなのに、どうしてかナマエのことが気になって仕方がない。自分のことはいつも二の次で、周りを気遣って、子供に愛情を注ぐ、眩しいくらいの純真さに惹かれるのは、俺には無いものだからだと思っていた。でも。
俺はどうして昨日、ヴィンセントがナマエに触れたのに苛立った?どうして、ナマエが他の男の話をしたのに胸が騒いだ?どうして、今日ナマエを誘った?どうして、あの大事な場所にナマエを連れて行きたかった?
…考えても考えても、やっぱり自分のことがわからないと思う。ただひとつ分かること。それは、これまで他人に抱いたことのない感情が、ナマエを見る度に湧き上がってくるということだけだ。思うより早く、口が、身体が動くのは、俺の中でナマエの存在が特別だからなのかもしれない。

「あんたは、どう思ってる…?」

誰に問いかけるでもなく、虚空にぽつりと吐き出した言葉。また会いたいと、あんたは思ってくれているんだろうか。ナマエが言っていた、俺と似ているという"優しい人"は、もしかして恋人なんだろうか。そう考えた途端に胸に走った鈍い痛みと、込み上げてくるモヤモヤとした感情。蓋をするように髪をかきあげて、ベッドから上体を起こした時に部屋の扉が開けられた。

「クラウド!」
「デンゼル、どうした?」
「ナマエ先生を泣かせたら、クラウドでも許さないからな!」
「は…?」

眉を寄せて、大きな目で俺を睨みつけながらデンゼルが唐突に吐いた言葉に、思わず目が丸くなる。こいつはいきなり何を言ってるんだ、一体。

「デンゼル、落ち着け」
「クラウド、いいから約束しろ!ナマエ先生を泣かせたりしないって!」

そう言って、俺の前にずんずんと大股で歩いてきたデンゼルは、右手の小指を立てて俺の顔の前にそれを突き付けた。

「…ん?」
「約束!」
「…はぁ、わかったわかった」

全くもって意味がわからないが、このままだと埒が明かなそうで、その細い指に自分の小指を絡めた。途端に、大きく頷いて満足したように部屋を飛び出していったデンゼルに、思わず笑いが零れた。デンゼルもマリンも、ナマエのことが本当に好きなんだろう。
心配するな、デンゼル。俺はナマエを泣かせたりしない。約束するよ。
デンゼルが飛び出していった扉に向かって、俺はそう呟いた。それから、と心の中で思う。今日、ナマエを教会に連れて行った理由が、やっとわかった。
エアリスに、もう心配しないでくれと伝えたかった。俺の特別な人だと、ナマエを紹介したかったんだ───。
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