08
ぐらりと傾く視界、それと同時に左肩に感じる温かさ。

「──あ、れ…?」
「えっ、ナマエさん!?」

多分、あれから調子に乗って飲み過ぎたんだと思う。ティファさんのお酒が美味しくて、それからヴィンセントさんやクラウドさんから聞く過去の旅の話がとっても面白くて。気が付いた時にはこの有様だった。ヴィンセントさんの左肩にもたれ掛かるようにして倒れてしまって、慌てて身体を起こそうとするけど力が入らない。

「っと、…大丈夫か?ナマエ」
「ごっ、ごめんなさ…」

いつの間にかヴィンセントさんはお酒が抜けてきたようで、口調もさっきよりしっかりしてる。今となっては私のほうが酔っ払いだ。思考がアルコールに溶けていって、ぼーっとする。

「ナマエ」
「は、い…?」

ふと肩に置かれた手に支えられるようにして身体を起こされる。その手はヴィンセントさんのものじゃなくて、私の右隣にいたはずのクラウドさんがいつの間にか私の後ろに立っていた。

「くらうどさん…?」
「飲み過ぎだ。家まで送るから帰った方がいい」
「ひとりで帰れますよ〜。ぜんぜんへーきです」

私の肩に手を置いたまま後ろに立っているクラウドさんに、上を見上げるようにして笑いかける。それを見たクラウドさんが眉間に皺を寄せた気がするけれど、ふわふわといい気分の私は気にもとめなかった。

「クラウド、私が送っていくぞ?」
「…いや、いい。バレットたちと飲んでたんだろ。ティファ、ナマエを送って行ってくる」
「うん。お願いね、クラウド」

それから腕を掴まれて、椅子から立ち上がらされる。そのままクラウドさんはふらふらと足取りが覚束無い私を支えるようにしてセブンスヘブンを出た。ちゃんと皆さんに挨拶できなかったなぁ、なんて朧げに考える。
外の空気は秋色で、少しだけひんやりしているけれど、アルコールが回って熱くなった身体には丁度良かった。

「家はどこだ?」
「丘の上です…、あっちのほう」
「歩けるか?」
「はい、大丈夫です…っわ!?」
「…言ったそばから、あんたな…」

ふにゃっと笑って答えて歩き出した途端に石ころを踏んづけてバランスを崩した私を、腕を引いて抱き寄せるように支えてくれたクラウドさん。びっくりして固まっていたら。

「ふ、」

頭上から聞こえてきた、吐息のような笑い声。それは紛れもなくクラウドさんから発せられたもので。弾かれたように上を見上げたら、眉尻を少し下げて穏やかに笑うクラウドさんが目に映ってドキリとした。この人、こんな風にも笑うんだ。

「孤児院にいる時とは随分違うんだな、あんた」
「…え?」
「しっかりしてるとか思えば、危なっかしいところもある。見ていて飽きない」
「うーん…?それ、ほめてます…?」
「ふ、半分な」

まだぼーっとする頭で考えてみるけれど、やっぱり褒められている気がしない。クラウドさんはそのまま私の腕を引いて、ふらふらする私に歩調を合わせてゆっくり歩き出した。きっとすごく優しい人なんだろうな、クラウドさんって。

「クラウドさんって、最初はわかりづらいですけど、優しいですね」
「…なんだ、いきなり」
「似てる人がいるんです。表現方法は違うけど、とっても優しい人。クラウドさんとその人、少しだけ似てる気がします」

話しながら、頭に思い浮かべていたのはレノさんのこと。調子の良いこと、適当なことを口では言いながら、ちゃんと周りのことが見えてる。隠すのが上手な優しい人。クラウドさんは一見周りに関心が無さそうだけど、レノさんと同じでちゃんと見ていて、どこか不器用で優しい人。私は本当に周囲の人に恵まれてるなぁ、なんて改めて思う。

「……」
「クラウドさん?」

あれ、何か不味いこと言ったかな。いきなり無言になったクラウドさんに内心焦りながら顔色を窺う。

「…いや、何でもない」
「?はい…。あ、家、ここです」

話しながら歩いていたら、いつの間にか自分の家がすぐ目の前にあった。外の空気のおかげで大分お酒も抜けてきて、途端に気まずさや恥ずかしさが込み上げてくる。ああ、いい大人が酔って迷惑をかけるなんて、穴があったら入りたい…。

「クラウドさん、ご迷惑おかけしました…」
「別に迷惑だとは思ってない」
「…でも、」
「気にするな」

ぽん、と頭に置かれた手に目を丸くする。クラウドさんの眼差しが優しくて、胸がどくんと大きく音を立てた。子供たちによく自分もする動作だけど、男の人から自分がされるとは思わなくて、しかもクラウドさんがそういうことするのが信じられなくて。

「まだ顔が赤いな」
「…っ、誰のせいですか…!」
「ん?」

きょとんとするクラウドさんに驚愕する。え、まさかわかってない?

「もう…、クラウドさん心臓に悪いです…」
「?…よく分からないな、あんた」
「えぇ…こっちの台詞ですよ…」

きっと私の顔が赤いのはアルコールのせいだけじゃない。頬に手を当てたら熱を持っていて、今が昼間じゃなくて良かったと思う。ヴィンセントさんのことを言えないくらい、多分茹でダコ状態だ。

「…送って頂いて、ありがとうございました」
「ああ、早く横になった方がいい」
「はい、そうします。クラウドさんは明日もお仕事、ですか?」
「明日は特に依頼も入っていない。あんたも非番なんだろ?」
「はい!…あの、」

何となく、もう少しだけクラウドさんと色々話がしてみたくて、でもどうそれを伝えたらいいのか分からない。目を泳がせてたら、クラウドさんが私をじっと見て口を開く。

「…どこか、行くか?」
「っえ…!」
「無理にとは言わないが」
「い、行きたいです!」

食い気味にそう答えてしまって、またかぁっと顔に熱が集まる。でもクラウドさんはそれを馬鹿にするでもなく、また優しく笑ってくれて。

「迎えに来る」
「…はいっ」

嬉しくて微笑んだら、クラウドさんの顔が少しだけ赤くなった気がした。でもすぐにいつもの顔に戻っていたから気のせいだったのかもしれない。それからもう一度お礼を言って、頷いたクラウドさんを見て家の扉を開ける。

「お休みなさい、クラウドさん。また明日」
「ああ。おやすみ、ナマエ」

パタンと扉を閉めて、無意識に緩む顔。明日楽しみだな、なんて思いながらベッドに入って、そのまますぐに眠りに落ちた。
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