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「ただの家、だよね」
「…ただの家じゃないようだ」
エアリスが呟いた途端に突然その家がガタガタ揺れたかと思ったら、炎を吹き出して地面から少し浮いた。いや、そんなまさか。
「謎多き悪魔の家VS最強カップル!これほどシュールな対戦が今まであったでしょうか!」
「ありません!あるわけがありません!」
「歴史に刻まれるのは確実でございます!」
「よそ見、まばたきは厳禁でお願いします!」
「それでは最終決戦…レディ、ファイッ!!」
無駄に観客を盛り上げるMCに苦笑して、その家に向かって私とクラウドが突っ込む。
「ナマエ、属性を合わせろ」
「ん、りょーかい!」
クラウドの指示通りダガーに冷気を纏わせる。エアリスがブリザガを離れたところから打ち込み、怯んだ隙に生えてきた脚と頭のようなものを斬り付ける。その時家の扉が開き、足元の塵を少しずつ吸い込んでいることに気付いた。扉が向いてる先は、エアリス…?
「っエアリス!気をつけて!扉!」
「え?…きゃっ」
エアリスが気付いた時にはかなりの勢いで力が強まっていて、少しずつエアリスの身体が家に吸い込まれていく。咄嗟に、素早く左足で地面を蹴ってエアリスの元へ行き、私はエアリスの身体を押した。よろけたエアリスから的が外れたことを安堵して、次の瞬間には私の身体が家に完全に吸い込まれた。
「ナマエ!!」
クラウドが名前を叫んだ気がするけど、返事をする余裕もなく視界は真っ暗闇。ここ、家の中か…。意外と外の音とか声とか、何にも聞こえないんだ。暗闇の中、手を伸ばして触れたのは壁。手に当たった感触に、ニッと口角が上がる。これ、木造のお家なんだよね。外は何かしらの仕掛けで属性がコロコロ変わるけど、中はそうもいかないよね。
「それなら……燃やしちゃおーっと」
思い立ったら即実行。床に当てた両手に、ありったけの気力を集中させて、一気にそれを流し込んだ。その瞬間、轟音を立てて内部から爆発を起こすヘルハウスと、その衝撃で扉から吐き出された私。
「──ナマエ!」
「…ったた、ありがと、クラウド」
宙に投げ出された私を受け止めてくれたのはクラウドだった。その腕から抜けて立ち上がり、ヘルハウスを見る。爆発で致命傷を負ったのか、部品やら何やらを飛ばしまくってるそれを見て、クラウドに視線を移した。
「クラウド、最後まかせた!」
「ああ」
頷いたクラウドが走り出すのを見て、エアリスと観客に被害が出ないように飛来物を魔法で撃ち落とす。クラウドがヘルハウスの頭部にバスターソードを突き刺すと、先程とは比にならないほどの大爆発を起こしてやっとそれは動かなくなった。
次の瞬間、屋内にも関わらず花火が打ち上げられ、静まり返っていた観客が大歓声を上げる。私たちも、一息ついて顔を見合わせた。
「やったね!」
「うん、お疲れ様!」
「ああ」
パン、と響いたハイタッチの音。右手にエアリス、左手にクラウド。ごく自然にできたそれに、思わず笑みがこぼれた。
「コルネオ杯!優勝は…クラウド&ナマエ&エアリスー!!」
一際大きくなった歓声に少しだけ後ろ髪を引かれながら、やっと手にした優勝にエアリスと喜びながら、私たちは闘技場を後にした。