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でも、エアリスは何も答えてはくれなかった。ただ哀しそうに目を細めて、彼女は微笑んだ。答えないってことは、それが全てなんだと悟る。どこかでわかっていた。ただ私が、それから目を背けていただけのこと。知らないうちに私の心はとっくに覚悟ができてたんだと思う。だって、悲しくて叫びだしたいのに、涙も声も出てはくれない。
前を、見る。その通りだ。どんな真実が待っていようとも、目を逸らさずに進むって決めたのは自分だ。俯いていた顔を上げて、エアリスを見る。

「──うん。そうだね」

決意を込めて頷いたら、エアリスは今度は優しく微笑んだ。丁度、クラウドも上から降りてきて少し怪訝な顔をしたけど、何か聞かれることはなかった。

ここから七番街に抜けるには、隠し通路を通るらしい。送ってくれたエアリスに別れを告げた時、何故か突然閉まっていたゲートが開いて、入ってきたのは1台のチョコボ車。え、あれって…。

「ティファ?」

クラウドがそう言って、チョコボ車に駆け寄って行く。

「ティファって、あのティファ?」
「うん…でもなんで」
「お洒落、してたよね」
「え、まさか…コルネオ?」

エアリスと顔を見合わせて、とにかく何やらティファと話しているクラウドを待つことにする。ウォールマーケットの黒い噂、それは前から聞いたことがあった。ウォールマーケットを牛耳るドン・コルネオ。そこにもしティファが向かっているんだとしたら…。
話が終わったのか、チョコボ車から降りて戻ってくるクラウドに駆け寄る。

「ダメ。ティファが優先」

クラウドが何か言う前に、そう言い放ったエアリスにクラウドが目を丸くした。

「エアリスの言うとおりだよ。行こ、クラウド」
「…ティファはその辺りの男よりずっと強い」
「それは知ってる。でもダメ」
「うん、コルネオはヘビみたいな男。どんなに強い女の子でも、ジワジワと締め付けて、心をポキンと追っちゃうの」

もしも本当にティファがコルネオの元に行ったんだとしたら、助けられるのは私たちだけだ。何かあってからじゃ遅いし、何もせずに後悔もしたくない。

「ね、クラウド。大切な人でしょ?助けてあげなくちゃ」

それでも動こうとしないクラウドの手を、私は強引に引いて歩き出す。目を見開いたクラウドに構うことなく、力任せにぐいぐい引っ張ってやる。

「っおい!」
「それでも男?いつまでウジウジ悩んでるの!」
「は?おま、」
「わーお。ナマエの啖呵、初めて聞いた」

待てとか、おいとかあーだこーだ言ってるのも全部スルーして、とりあえず目指すはティファを乗せてたチョコボ車。エアリスが可笑しそうにずっと笑ってるけど、それも知らないふりをしとく。
少し走った先に見えてきたのは、チョコボ車と整備をしている男性の姿。掴んでいたクラウドの手を離し、私はその人の元へ駆け寄った。

「ねぇ、おじさん!」
「ん?いらっしゃい、チョコボかい?」
「そのチョコボ車に乗ってた娘、どこいったか、知らない?」
「あ?客じゃないなら帰ってくれ。こっちは暇じゃないんでね」

エアリスが聞いた言葉に思いっきり眉を顰めて、また整備を再開するおじさん。文句でも言ってやろうと、ちょっと、と詰め寄った時、おじさんの後ろの扉が開いて別の濃ゆい髭のおじさんが出てきた。
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