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それから少しだけ歩くと、公園が先に見えてきた。エアリスが立ち止まって、振り返って手を挙げる。あ、やっぱりやるんだ。どうせクラウドはさっきの引き摺ってやらないんだろうな、なんて思ってたら、クラウドが少し躊躇いがちに手を挙げ、エアリスの手にそれを重ねた。パン、と控えめに鳴った音に私は目を丸くする。

「クラウド…成長したね」
「……それはバカにしてんのか?」
「あはは、まさか!じゃあ、はい」

機嫌を損ねたら面倒だからそれ以上揶揄うのはやめておいて、私もクラウドに向かって手を挙げる。それを見て、クラウドは大きめの溜息を吐いてから、同じように手を合わせてくれた。エアリスと私もハイタッチをして、見えている公園へ向かう。

「あれ、七番街スラムへ抜けるゲート」

エアリスが指をさした先へ視線を向けると、大きなゲート。でも閉まっているように見えるけど。

「閉まってるな。開くのか?」
「ね、少し座って話さない?」
「いやそんな時間は──」

クラウドの問いをスルーして、エアリスは返事も待たずに独特な顔が描かれた遊具の上に登り始めた。

「こっちこっち」

またか、という顔をして溜息をつきながら、クラウドも渋々遊具に登る。ふたりが腰を下ろした時丁度エアリスと目が合って、私は下でいいよと声を掛け、遊具に寄り掛かった。

「昔、ここでお花を売ったこと、あるんだ」
「そうか」

それはきっと、ザックスとのことを言ってるんだとすぐにわかった。何も口を挟まずに、空を見上げながらふたりの会話を聴く。

「クラウドって、クラスファースト、だったんだよね?」
「ああ」
「そっか…」
「それがどうかしたのか?」
「ううん、同じだと思って」
「同じ?誰と」
「…初めて、好きになった人」

今でも好きな人、とは言わないエアリスに、少しだけ違和感を覚える。そういえばリーフハウスで話した時も、エアリス泣きそうな顔で笑ってた。

「名前は?多分知ってる」
「──ザックス」
「…っ、」

ザックスとエアリスが口にした途端、頭上からクラウドの小さな呻き声が聞こえて咄嗟に振り返って見上げる。再び頭を抑える仕草をしたクラウドに、私の中ではほぼ確信のようなものが生まれた。これは、神羅にいた時に宝条が言っていた現象なんじゃないかと。

"ジェノバ細胞を植え付け魔晄を浴びせた人間は身体能力が格段に飛躍する。しかし、耐性がなければ…ジェノバ細胞に意識まで蝕まれるかもしれんなぁ"

ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべて、ぶつぶつと呟かれた言葉。まだ物事をちゃんと考えられる年ではなかった私は意味がわからず、ただただ怯えていただけだった。それが今、なんとなくクラウドがそれなんじゃないかと思ってしまっている。でもどうして、ソルジャーはそもそもその耐性が無ければなれないはずじゃ?ぐるぐると考えるけれど、答えは出そうにない。

「だいじょうぶ?」
「……あぁ、…っえ」
「綺麗…」

エアリスがクラウドの瞳を覗き込んで呟く。当のクラウドは突如目の前に現れたエアリスの顔に驚いたようで、少しだけ距離を取った。その光景に少しだけ痛みが胸に走って、思わず目を逸らした。そんな自分に驚きながら、もう一度空を見上げる。

「瞳」
「…ああ、魔晄を浴びた者の瞳。ソルジャーの証だ」
「うん、知ってる…。ごめんね、こんな話。もういこっか」

そう言うとエアリスは先に遊具から降りてきて、私を見つめた。

「前、見なくちゃね」

その言葉は、エアリスが自分に言い聞かせるようにも聞こえたし、私に言ったようにも聞こえた。真っ直ぐ私を見つめる翡翠の瞳に、そっと口を開く。小さく、他の誰にも聞こえない声で。ずっと聞きたくて、怖くて聞けなかったその問いを。

「…ザックスは、生きてるよね?」
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