50
「ティファって、クラウドの恋人?」
「は?…違う」
「あ、ムキになってる」
「そういうんじゃない。…でも、説明出来そうにない」
そんなエアリスとクラウドの会話を、少し後ろで訊く。ズキズキと訳の分からない痛みが続いて、どうしてか気分も沈む。思い出すのは、クラウドに会う前セブンスヘブンでしたティファとの会話。恋人かと訊いた私に、顔を赤らめたティファ。ティファは、やっぱりクラウドが好きなんだろうか。クラウドは?クラウドも満更じゃないのかも。…それじゃあ私は?私は何で、こんなこと気にしてるんだろう。他人の色恋沙汰なんて興味もないし、首を突っ込むつもりもないはずなのに。
「ふぅん…。じゃあ、ナマエは?」
「…え?」
突然エアリスから振られた言葉に、意味がわからず聞き返す。
「ナマエは、恋人、いるの?」
「…恋人?あはは、いないよ」
「そっか。じゃあ、安心、だね?」
「……何の話だ」
最後の言葉は、私に向けられた言葉じゃなかった。エアリスは、何故かそれをクラウドに向かって言っていて。クラウドも眉間に皺を寄せて、気まずそうにエアリスから目を逸らした。この一連のやり取りは正直意味がわからなかったけど、逸れた話に少しほっとした。モヤモヤと霧がかかったような、嫌な思いをせずに済むから。
もう遊び場はすぐそこだ。いつの間にか見当たらない子供たちを追って、私はふたりより先に足を進めた。
「ありがとう!」
遊び場に入ってすぐ、出迎えてくれたムギくんから開口一番に言われたお礼に、私は笑みを返した。
「今度なにかあったら、すぐ大人を呼ぶこと!」
「うん、そうする」
エアリスの優しい言葉に、ムギくんもやっと安心したのか素直に頷いた。ポケットから何か取り出したムギくんが、それをクラウドに手渡す。
「…鍵?」
「エアリスたちは大人だけど、もう仲間だからいつでも遊びに来てよ」
「あはは、ありがと、ムギくん」
クラウドの掌の中には、画用紙で作られた手作りの鍵。ここに入っていいっていう証らしい。笑ってムギくんを撫でると、ムギくんは照れくさそうに微笑んだ。
その時、突然子供たちの悲鳴を聞こえて私たちはすぐさま振り向いた。そこにいたのは、所々破けて穴が開いた、黒いローブを纏った長身の男。これ、ムギくんが最初に言っていた…?
エアリスが子供たちを庇うように隅に行き、私とクラウドはそれぞれ武器に手を掛けた。
「う、…ぅ…あ」
まるで言葉になっていない呻き声を上げ、フラフラと歩いてくる男に身構えた時、突然その男はバタリとその場に倒れ込んだ。
「待て、」
クラウドが制止するより先に、エアリスと共に男の元へ駆け寄る。クラウドもすぐに駆け寄ってきて、しゃがみ込んだ。男は顔色が相当悪い。病気だとムギくんが言っていたけど、一体なんの?なんだかざわざわと胸が騒ぐ。
「似たような症状の男が隣に住んでいる」
「…あれ?なんだろう……数字の"2"?」
「刺青か。そういえば──」
クラウドが何か言いかけた時、突然男が手を伸ばし、私とクラウドの腕を掴んだ。その瞬間、脳に無理矢理、津波のように流し込まれる映像。
「っう、───」
「な、に───?」
絹糸のように靡く銀色の髪。強く輝く魔晄の瞳。ゾッとするほど冷酷で、非情な笑み。この人を、私は知っている気がする。誰、貴方は誰?痛い、頭が割れそうだ。その人の薄い唇が動く。"リユニオン"。リユニオンって、何のこと?痛い、頭が痛い──。
「ナマエ!クラウド!」
「っあ、…エア、リス…?」
「……大丈夫だ」
エアリスの声に急激に意識が覚醒する。辺りを見渡しても、特に何も変わりはない。さっきの男もいないし、もちろん銀色の髪の男もいない。心臓がどくどくと嫌に脈打ち、気が付くと身体が震えていた。ふと横にいるクラウドも同じ幻覚を見ていたのか、自分の手を呆然と見つめていた。その手は同じく震えているように見える。
「…ふたりとも、しっかり」
エアリスがそう言って、クラウドの震える手と、私の手を取った。
…温かい。安心、する。
ほ、と息を吐き出して、エアリスに頷いてみせる。いつの間にか、身体の震えは治まっていた。