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「エアリス……セフィロスを知ってるか?」
「うん…英雄セフィロス」
「───っ!?」

クラウドがエアリスに向かって訊ねたそれと、エアリスの言葉に私は目を見開いた。そうだ、あの人はセフィロスだ。ザックスに何度も何度も訊いた、ザックスが目標としていたクラス1stのソルジャー。そして、私のこの身体が、何のために作られたのか。全部、宝条が、セフィロスの──。

「……うっ、」
「ナマエ!?どうした!」
「だいじょうぶ!?」

吐き気が込み上げてきて、慌てて口に手を当てる。何事かと目を見開く2人に、首だけ振る。

「…だい、じょぶ。ごめん、ちょっと」

ぐるぐると嫌な記憶が頭の中で渦巻く。耐えきれずにふたりにそう言うと、私はその場を逃げるように飛び出した。

私はひとり、リーフハウスへと歩いていた。目的があったわけじゃない。ただ、行く宛もないまま来た道を歩く。心配、させただろうな。何も言わずに飛び出してきてしまったことを後悔するけど、どうしようもなかった。

「ナマエ」

後ろから優しい声が聞こえて、振り返る。そこにいたのは優しく微笑むエアリスだった。

「……エアリス」
「ちょっと、話そっか」

そう言って私の手を取って、リーフハウスに向かって歩き出すエアリス。断る理由もなくて、なすがままに着いていく。リーフハウスにつくと、エアリスは子供の落書きが沢山ある壁にもたれ掛かって、私にもそうするように視線で促した。壁を背にふたり並んで、広場を元気に駆け回る子供たちを眺める。

「ふふ、元気だなぁ、みんな」
「…うん。……クラウドは?」
「なんでも屋の、お仕事中。なんとムギが、斡旋してくれたの」
「あはは、そうなんだ。……エアリス、ごめんね」
「ううん。ナマエと、ちゃんと話、したかったから」
「…私も」

眩しいくらい綺麗に微笑んだエアリスに、私もその純粋で透き通った瞳を見つめて頷いた。エアリスに聞きたいこと、聞いてほしいことが沢山あるから。

「クラウドね、ナマエのこと、見てるこっちがハラハラしちゃうくらい心配してた」
「え、クラウドが?」
「うん。ナマエのこと追って、飛び出しちゃいそうだったの、慌てて止めて来たの」
「えぇ?ちょっと信じられない」
「でしょ?あとで、声かけてあげてね」
「…うん、そうだね」

そんなに心配させちゃったなんて、悪いことしたな。あとでちゃんと謝ろう。そんなことを頭の片隅で考えながら、私は重い口を開いた。

「エアリス、…ザックスのこと、憶えてるよね?」
「……うん。忘れたくても、忘れられないから」
「うん、私も。ザックス、どこ行っちゃったのかな」
「…女の子、大好きだからね。どっかで可愛い子、捕まえたのかも」

そう言って、眉を下げてエアリスは笑った。そんなこと、本当は微塵も思ってないことはすぐにわかった。でも、そう思ってないと辛いから。それは私も一緒だった。

「わたしね、ナマエのこと、知ってたんだ」
「え?」
「知ってた、は違うかな。ザックスから、いーっぱい訊いてたの」
「…あはは、ザックス何て?」
「妹のような子で、名前はナマエって言うんだ、から始まって…今日はナマエが初めてちゃんと話してくれたんだー、とか、ナマエが初めて笑ったんだー、とか?」

なにそれ、と思わず吹き出してしまう。だって、それじゃあまるで自分の子供の成長を喜ぶ父親みたいだ。

「…でも、物心ついた時には神羅にいて、死にたくなるような事いっぱいあって…。ザックスに会うまで、笑ったりすることなかったから」
「そっか…。でもね?あまりにも楽しそうに、嬉しそうに話すから、ホントに妹なの?って、実はナマエにヤキモチ妬いてたの」

ちょっとだけ頬を膨らませてそう言ったエアリスに、思わず目を見開く。

「えっ?それはさすがに考えすぎ!ザックスは、お兄ちゃんみたいな存在だよ。…ううん、血は繋がってなくても、お兄ちゃんだと思ってる」

私を、暗闇の中から助けてくれて、生きていていいんだと思わせてくれた。ザックスは、私にとって大切な兄だ。
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