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「うーん…どれがいいと思う?」
「どれでもいい」
「んー、やっぱり…コレかな」

そう言って私は、黄色いお花の元にしゃがみ込んだ。

「もしかして、気に入ってくれた?」
「うん、教会に咲いてて綺麗だったから。それに…」

それに、思い出の花だから。私にとっても、そしてきっとエアリスにとっても。

「それに?」
「ううん、何でもない。ほらクラウド、早く早く」

脇でまだ不機嫌そうに突っ立ってるクラウドに、早く花を摘んでと促す。あ、今溜息で返事したな。

「これでよし!リーフハウス、いこっか」

ふたつのカゴがいっぱいになるくらい花を摘んで、ここに来るまでに通った小道を引き返す。歩いてそれほど経たずして、辿り着いたリーフハウスという孤児院。広場では子供たちが元気に走り回っていて、微笑ましくなる。

「俺はここで待つ」
「私も。知らない人が入ったら、びっくりさせちゃいそうだし」
「うん、わかった。でも、退屈でしょ?街、見てきたら?」
「じゃあ、そうする。エアリス、また後でね」

リーフハウスの前でエアリスと一旦別れ、とりあえず言われた通りにスラムで時間を潰すことにする。宛もなくクラウドと並んで歩く。視線を感じて、クラウドを見上げて首を傾げる。

「聞いてもいいか」
「うん?んー、内容によるかな」
「あのタークスとは知り合いか」
「ううん、知らない」

別に嘘ではない。あの、レノというタークスとは本当にあれが初対面だったし。まぁ、他にひとり知ってるタークスはいるけど、とは敢えて言わないでおく。

「…なら、作戦中、俺とはぐれた後、何があった?」
「…猫がいて、追いかけたら道に迷っちゃった。えへへ」
「………はぁ。タークスに追われる理由は」
「それは、…ノーコメント。今はまだ、言えない。ごめん」

いつか話さなければいけない。でもそれは今じゃない。私情でしかないものに、クラウドやみんなを巻き込む訳にはいかないから。

「…言いたくなったらでいい」
「──!」

そう言ってクラウドは、私の頭に優しく手を置いた。いきなりの行動に、びっくりしすぎて声が出なかった。革手袋越しに、少しだけ伝わる熱。見つめる優しい瞳。少しして離れていった手に、やっぱり感じる寂しさのようなもの。顔が赤くなっている気がして、私は咄嗟にクラウドから顔を背けた。

「……クラウド、変だよ」
「…ん?」
「〜〜〜っ、行こ!エアリスのとこ戻ろ!」

訳がわからないとでも言いたげに聞き返されて、こっちはこっちで訳が分からないんだと頭の中でクラウドに罵声を浴びせながら、待てと後ろから聞こえる声も無視して待つことなくリーフハウスへ向かって早足で歩く。どうしちゃったのクラウド。それ以上にどうしちゃったんだろう、私。ドキドキと治まらない胸を抑えて、ひたすら先を歩いた──。


「あっ!」
「ん?あ、」

もう少しでリーフハウス、というところで横から聞こえた幼い声。声がした方を向くと、伍番街にきてすぐに会ったエアリスの知り合いの男の子。名前は確か、ムギくんだったか。

「おまえは……」

いつの間にかすぐ後ろに追い付いていたクラウドも、その子を見て口を開く。あれ、なんだかムギくん困ってるっぽい感じ?

「エアリスは?」
「リーフハウスだよ、どうかしたの?…って、行っちゃった」

私の言葉を最後まで聞くことなく、ムギくんはリーフハウスの方へ走っていってしまった。

「どうしたんだろ」
「さあな…」
「とりあえず、リーフハウス行ってみよ」
「ああ」

リーフハウスに辿り着くと、広場にはエアリスとムギくんが何やら話しているのが見える。

「なにかあったのか?」
「うん…子供たちの遊び場で、ちょっとね」
「ムギくん、お姉ちゃんたちにも教えて?」

ムギくんに目線を合わせるようにしゃがみ込んで問いかける。

「うん…。遊び場に黒い服の人が入ってきて、怖がった子たちが外に出ちゃったんだ」
「え、黒い服?」
「…タークスか?」

ふと頭に過ぎったのは黒いスーツのタークス。クラウドも同じことを考えたようで、エアリスにそう訊ねる。

「ううん、違うみたい」
「ボロボロのマントを着て、いつも街の中をフラフラ歩いてる人。ビョーキなんだって。あと、腕に数字が書いてあるんだ」

ボロボロのマントで、腕に数字?全く心当たりがないけれど、聞いただけでなんとなく嫌な感じがする。

「心配だから、わたし、行くね」
「俺も行こう。似た男を知っている」
「私も。子供たちになにかあったら大変」
「…うん、ふたりとも、ありがとう」

そのままムギくんに案内をお願いして、私たちはその場所へ急いだ。
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