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「ここまで送った意味がない。またタークスが来たらどうする」
「面倒だけど、慣れてるから。それより、ふたりのほうが心配!あっちこっち迷いそう」
「う…否定はできないけど…。でも、エアリスに迷惑かけるわけにはいかないよ」
「迷惑なんて、思ってないよ?お母さん、わたし七番街までふたりを送っていくから」
矢継ぎ早にエルミナさんにそう言ったエアリスに頭を悩ませる。大人しそうでお淑やかな外見に反して、意外と強引なところもあるようだ。
「そうかい。でも明日にしたらどうだい?今から行って帰ってじゃ遅くなる。今日はもうゆっくりして、朝早くに出な。そしたら昼には着くだろう?」
「だね、クラウド、いいよね」
「待て」
「そうだ、リーフハウスからお花の注文あったの。夕食までまだ時間、あるよね。ふたりと行ってくる!」
「ちょ、ちょっとエアリス…?」
「約束が違う」
口を挟む間もなくどんどん進められる話に、さすがに混乱する。隣のクラウドに至っては、眉間の皺が深くなる一方で。
「そんなこと、言う?報酬、すっごく高いのに!」
「あー…それはたしかに」
「おい…なに納得してるんだ」
報酬って、多分教会で言っていたデート1回のことだよね。クラウドにとってはかなり高い報酬。と思わず納得してしまって、当のクラウドに睨まれる。
「お母さん、聞く?」
「っ待て!」
「あはは…」
さすがにエルミナさんに話されたら、あらぬ誤解を招きそうだからか、焦ってたじたじになっているクラウドに苦笑が漏れる。
「ふふ。カゴ取ってくるから、ちょっと待ってて」
満足気に微笑んだエアリスが、2階へ上がっていくのを見送って、クラウドは大きな溜息をついた。
「まったく、慌ただしい娘だろ」
「いえ、エアリスらしいです」
「…あの娘と仲良くしてくれて、ありがとう」
あの女たらしのザックスが、一途に思い続けた人。綺麗で、ちょっと強引で、変わってる。でもあの独特の空気が、人を惹き付ける。エアリスの傍は、まるで陽だまりみたいだと思う。
取り留めもない世間話をエルミナさんとしていると、階段を駆け下りてくる音が聞こえた。
「お待たせ〜!はい、コレ」
「…え」
「はい!」
ずい、とエアリスがクラウドの前に差し出したのはひとつの小さなカゴ。エアリスの左手にも同じカゴが提げられている。怪訝な表情のまま受け取ろうともしないクラウドに、ぐいぐいそれを押し付ける。
「…はぁ」
あ、諦めた。本当に渋々といった表情でクラウドはカゴを受け取る。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
満面の笑みでカゴを掲げて、エアリスは扉を開けた。それに溜息をついて続くクラウドを追って、エルミナさんに軽く会釈をして私も外へ出る。
「…ぷ、」
「……今笑ったか」
「え、なんのこと?…っふ、ふふ」
「…シメるぞ」
思わず漏れてしまった笑いに、目敏く気づいたクラウドが振り返って私を睨む。いや、そんな可愛いカゴ片手に凄まれても、怖くないしむしろ一周回って面白い。
「おまえが持て」
「ふ、っあはは」
おまえってクラウドさん。怒りすぎて口調変わってるじゃん。あー、面白い。
「ダメ、それはクラウドが持つから、いいんだよ?ね、ナマエ」
「…っぷ、もしかしてエアリス、確信犯?」
「さぁ、どうでしょう?」
「……はぁ。さっさと済ませるぞ」
笑いすぎてる私と、悪戯っ子のような表情のエアリスを見て、クラウドは今までで一番大きい溜息をついて歩き出してしまった。エアリスと目を合わせて、笑い合ってからクラウドを追う。