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「ふたりとも、行こ!」
いつの間にか話を終えていたエアリスが、私たちに向かって手を振る。それに頷いて、とにかくエアリスを無事に送り届けることに意識を持っていく。
エアリスに続いて市街地方面へ走り出した時、頭上からヘリのホバリングの音が聞こえ、私たちは咄嗟に物陰に身を隠す。
「神羅のヘリ…」
「隠れろ」
センスの悪い神羅のロゴ入りのヘリを見て、溜息をつく。少し様子を伺っていると、ヘリから次々と新羅兵が降りてくるのが見える。そして、最後に降りてきたのは。
「…またタークス?ほんとツイてない」
思わず口から悪態が零れ落ちる。スキンヘッドに、いかついサングラスと主張しまくる大量のピアス。いかにもな風貌の黒スーツは、どう見てもタークスだった。何処に行っても現れるタークスに、心底嫌気がさす。
「働き者だね…」
「よほど大事な用らしい」
「わたし?クラウド?…やっぱりナマエ?」
「エアリス、やっぱりってなに…」
「どっちにしても見つかると面倒だ」
「ほかの道、ないの?」
「じゃあ、裏道、行こうか!モンスター、でるけど」
「「神羅よりはマシ」」
タークスが向かった道とは別の小道を指さしてそう言ったエアリスに、クラウドと私の反応は面白いくらいにぴったり一緒だった。可笑しそうに笑ったエアリスに釣られて私も笑って、クラウドは片眉を吊り上げて微妙な顔をしてた。なんだその失礼な反応、とは思ったが面倒だったから突っ込まずに、揃って駅を後にした。
「わ、すごい!」
細い路地を抜けた先、目の前に広がった景色に思わず感嘆の声が漏れた。一面に広がる花畑と、流れ落ちる滝の傍に佇む一軒の家。
あの後私たちはモンスターが出る抜け道を通り、伍番街スラムへと辿り着いた。途中、魔晄炉爆破のテレビ中継がされてたり、エアリスの知り合いの小さい子に会ったり、孤児院でお使いを頼まれたりとなんだかんだあったけど。
「あれが、わたしのうち。お母さん、紹介するね」
先を駆け出したエアリスに続いて、花畑に囲まれた道を進む。
「すごいな」
「ね、ほんとすごい!でも意外、クラウドもこういうの綺麗だって思うんだ」
「…悪いか」
「全然。むしろ安心」
「どういう意味だ…」
素直に呟いたクラウドに、目を丸くしたら機嫌を損ねてしまったみたいで苦笑する。いいことだと思う、そういう感性があるって。綺麗なものをみて綺麗だって言って、美味しいものを食べて美味しいって言って。そういうの、普通のことだけど大事なことだろうし。
「どうぞ」
扉を開けたエアリスに入るよう促されて、中に足を踏み入れる。ふと目に付いたのは、台所で料理を作る、中年女性の後ろ姿。
「ただいまー」
「おかえり。少し前にルードが来たけど一体──」
エアリスがその後ろ姿に声を掛けると、その人は水で濡れた手をタオルで拭いてこちらを振り返った。そして案の定、見ず知らずの私とクラウドに目を丸くした。
「わたしのお母さん、エルミナ」
「お邪魔してます、ナマエです」
「ナマエは、わたしの友達。こちらクラウド、ボディガードなの」
「世話になったね」
エアリスのお母さん、エルミナさんに向かって私たちは頭を下げた。優しく微笑むその顔に安心すると同時に、あまりエアリスと似てないんだとふと思う。
「これで完了だな」
「うん、ありがとう。ふたりは七番街、行くんだよね」
「うん、そのつもり」
「ああ」
「じゃあ、送ってく」
エアリスから発せられた言葉に、思わず目を見開いて、クラウドと顔を見合わせる。だって、それじゃあここまでボディガードした意味が無くなる。