45
-----------------------------
「奴ら屋根裏に逃げました。追いますか?」
「いや、撤収だ」
「…いいんですか?」
「あとは相棒に任せるぞ、と。………ナマエ、ね。楽しくなってきたな──」
「…何か言いましたか?」
「いーや、独り言だ」

そう言ったレノの顔は、面白い玩具でも見つけたかのように、心底楽し気だった。
-----------------------------

「…っはー、やっと外の空気が吸える…」
「ふふ、埃っぽかったもんね」

屋根裏を伝って、レノ達が撤収していくのを階下に見下ろしながら何とか教会を出ることができ、大きく伸びをして空気を吸う。ほんとにしんどかった、色んな意味で。

「屋根の上、行こう」
「ああ」
「はーい」

エアリスの言う通り、まだどこかに神羅がいてもおかしくない状況の今、屋根伝いに伍番街を目指すのが良さそう。

「これから、どうするの?」
「しばらくはボディガードだ。ナマエ、いいよな?」
「うん、もちろん。こんな可愛いエアリスをそこら辺に放っておけないもん」
「ふふ、ありがとう、ふたりとも」

屋根の上や配管の上を渡りながら、会話をする。これくらいの高さなら全然平気なんだけどな、なんてひとり思いながら。

「その後は七番街のスラムに帰る」
「帰り道、わかる?」
「……あぁ」
「何その間…。言っとくけど、私はわからないからね」

変な間をあけて答えたクラウドに苦笑して、正直に答えておく。だって、ずっと七番街で隠れるように過ごしてきたから。他のスラムのことなんて、全くわからない。

「クラウド、あやしい…」
「わからないなら素直に言えばいいのに。ね、エアリス?」
「ねー」

聞こえているのかいないのか、クラウドは反応すらしない。図星だ、絶対。

「さっきの男、あれは神羅カンパニーのタークスだ。タークスがあんたに何の用だ?」

クラウドが少しエアリスを振り返ってそう訊ねる。それは私も気になっていたことだったから、口を挟まずに大人しくしておく。

「ね、タークスってソルジャー候補をスカウトするんでしょ?」
「それは仕事のごく一部。タークスの仕事はほかにも色々あるんだ。暴力を匂わせて…」
「脅迫、拉致……最低だよね」
「仕事の為なら何でもする。相手の懐に入り込んで懐柔して、信用を得たら裏切る……。あ、ごめん続けて?」

大人しくしてようと思ったのに、口挟んじゃった。怪訝な顔で私を見るふたりにはっとして、先を促す。でも脳裏には、昔のツォンの姿がチラついていた。

「──最初の質問に戻ろう。あんたとあのタークスの関係は、顔見知りに見えた」
「ソルジャーの資質、わたしすっごくあるのかも」
「……もういい」
「あれ?怒った?」
「あはは」

クラウドとエアリスの掛け合いに笑って、私たちは先を急いだ。エアリスは答えをはぐらかしたけれど、それにとやかく言うつもりはなかった。私も、みんなに言えてないことがいっぱいある。そしてそれはいつか、話さなければいけないんだと思う。

エアリスの案内で抜けた先は、伍番街スラムの駅前だった。駅員に詰め寄る住人がいたり、何だかザワザワと落ち着きがない。

「騒がしいな…」
「魔晄炉、良く見えるからね、ここ」
「…そっか」
「野次馬か」
「みんな、心配なんだよ」

エアリスが道端にいたおばさんに話し掛けられ、そちらに駆け寄っていくのをその場で見る。隣に立つクラウドを見て、私は口を開いた。

「クラウド」
「なんだ」
「間違ったことはしてないと思ってる。…でも、他に方法ってなかったのかな」
「…どうだろうな。俺は雇い主に従うだけだ。方法に口を出せる立場でもない」
「わかってる。でも……人や街が壊れるのは悲しいよね」
「……そうかもな」

神羅が嫌いで許せない、それは私もアバランチも一緒だ。けれど、このまま続けていたら、神羅が切り捨てるのは間違いなくスラムだ。普通に生活を送る人達に、何の被害もないとは思えない。この方法で本当にいいのか、私はずっと考えている。

「…迷うならやめてもいい。誰も責めない」
「みんな優しいからね。…でも、知りたいことがあるから」
「……あんたが何を抱えてるのかはわからない。…ただ、俺が傍にいる」
「え」
「だからひとりで突っ走るな」

クラウドの真剣な目が、私を真っ直ぐ貫いた。びっくりした。クラウドらしくない言葉と、大切なものを見るような瞳に。敵わないな、と思う。あぁ、本当に格好良いよ、クラウドは。ドキドキとまた鼓動が早まるのを感じながら、私はクラウドに微笑んで頷いた。
prev | next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -