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「エアリス!はやく!」
「う、うん!」

早くその位置から離れなければ、エアリスは銃弾の恰好の的だ。エアリスが一歩こちらに踏み出した時、銃を構えていた兵士が咄嗟に発砲する。

「おい!撃つな!」

それを叱責したのは、何故か赤髪の男だった。ただ、既に放たれた銃弾は、エアリスに当たらなかったものの、エアリスが立つ床板に当たり、それがミシミシと嫌な音を立てた。

「っえ、あ、…きゃあ───!」
「エアリス!」

バキ、と大きな音がして床板が完全に折れ、エアリスの身体がぐらりとバランスを失った。咄嗟に名前を叫んで、手を伸ばしたけれど微かに指先が触れただけだった。悲鳴とともにエアリスが階下まで落ち、ただ幸いなことに崩れた床材や瓦礫がクッションの役割を果たしたのか、身体が滑り落ち衝撃は最小限で済んだようだ。良かった、と安堵の溜息を漏らす。いや、全然良くないんだけど。

「う……いったたたた…」
「おい、大丈夫か!」
「へ、平気……じゃ、ないかも」

座り込むエアリスの目の前には、じりじりと詰め寄る兵士。多分、ううん、かなりピンチだ。

「怪我なんかさせてみろ。おまえ、終わるぞ」
「っは!」
「目的は──保護」

男と兵士のやり取りが微かに聞こえた。タークスの目的は、エアリスの"保護"?それが何を意味しているのか、何故エアリスなのか、それは分からないけれど、タークスを動員するような任務なら、多分神羅にとってかなり重要なものなんだと思う。しかも、絶対に碌でもないやつ。

「っえ!?」
「…なんだ?」

エアリスに近付こうとした兵士が素っ頓狂な声を上げる。男もその様子を見て、眉を顰めた。影が、エアリスを庇うように浮遊しているのが見える。ただ、影は私たち以外には見えていないようだ。

「エアリス!」
「逃げろ!」

この状況を打破するには今しかない。そう思ったのは私だけじゃなく、クラウドもだったようだ。その声に弾かれるようにエアリスが走り出し、慌てて兵士がまた銃を構えた。

「動くな!」
「だァから、撃つなって」
「しっ、しかしレノさん!」

ただでさえ影のせいで、兵士からしたら見えない壁のようなもので行く手を邪魔されているのに、銃も使えないとなっては焦る気持ちもわかる。こっちとしては願ったり叶ったりなんだけど。

「クラウド、今のうちにエアリス助けなきゃ」
「ああ、わかってる。…あれ、使えるかもな」
「…ん?」

そう言ったクラウドの視線の先には、天井から下がる大きなシャンデリア。確かに、あれを落とせれば、兵士の動きをかなり止められるかもしれない。

「…うん、やるしかないね」
「ナマエはここで待ってろ」
「あ、うん。じゃあお願い」

シャンデリアまではかなり距離もあるから、飛んでいくわけにも行かないし、と大人しくクラウドに任せる。クラウドは天井の梁を軽々と渡って、シャンデリアのチェーンを切り落とした。予想通り、階下に派手な音を立てて落ちたそれは、エアリスと兵士を上手いこと分断できたようで安心する。

「今だ!」
「う、うん…!」

駆け出したエアリスを見て、また何らかの手を使って邪魔されたらたまったもんじゃないから、兵士達に向かってとりあえずエアロでも撃っておく。

「うわっ!」
「あっぶね!…ナマエ、いい度胸してるなァ?、と」

私を見上げて、またあのニヤリと悪意がある顔をした、レノと呼ばれた男。本当に、苦手だ、と改めて思う。

「そんなとこにいるのが悪いんでしょ。早くその怪我人連れて帰ってよ、神羅兵さん」
「はは、心配してくれてんのか?」
「おめでたい頭で羨ましい」
「そりゃドーモ。んなトコいねぇで、降りてこいよ、と」
「死んでも嫌」
「はっ、可愛くねぇ女」

一切噛み合わない会話に本格的に頭痛がしてきた。冗談はそのアホみたいに真っ赤な髪の毛だけにしといて欲しい。

「構うな、ナマエ」
「クラウド、エアリス!よかった、無事で」
「お待たせ。行こっ!」

いつの間にか、エアリスと合流できたクラウドがすぐ傍まで来ていた。笑顔を見せるエアリスにほっとする。やっとあいつとおさらばできる。私はもうレノに目を向けることもなく、屋根裏へと続いている梯子をさっさと登った。
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