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「うわ、これ大丈夫…?」
目の前には、床が抜けた大きな穴と、心許なくなんとか一本だけ残る床板。これ、抜けたら下まで真っ逆さまだよね。クラウドと私はいいとして、エアリスが危ないんじゃ?
「俺が先に行く」
「うん。クラウド、気を付けて」
足場の安全を確かめるために先頭を名乗り出たクラウドにそう声を掛けて、エアリスとその様子を見守る。木が軋む嫌な音はするけど、意外と強度はあるのか無事に渡りきって頷いてみせるクラウド。
「じゃあ私行くね。エアリス、ちょっと待ってて」
「うん、ナマエも気を付けて」
「平気平気!」
心配気な表情を浮かべるエアリスに笑ってみせて、床板に足を掛けた。うん、大丈夫そう。と、ふと足元を見て、ぐらりと目眩がした。あ、これ意外と、高いな…。3階くらいの高さなら余裕だと気にもしていなかったけど、いざ不安定な足場に立ってみると、階下も丸見えで嫌な汗が流れる。だめ、考えちゃだめ。無心無心無心……。あまり足元を見ないように、なんとか半分くらいまで進む。
「っう、……うぅ」
恐怖のせいで変な声が口から漏れてる気がする。ナマエがんばれ、なんて明るいエアリスの声が後ろから聞こえるが、もちろん振り向いて返事をする余裕なんてあるわけもなく。
「ほんとに苦手なんだな、高いの」
「っいま、はなし、かけ、ない、で!」
クラウドが前の方でそんなことを言ってるけど、ほんとにお喋りなんかする余裕ないんだってば。お願い集中させて。一刻も早くこんな拷問から抜け出したいんだ、私は。
「ふ、…ほら」
漏れ聞こえた静かな笑い声と、差し出された革手袋をつけた手。それは私が手を伸ばせば届く位置にあって。おずおず伸ばした手を、それに重ねる。ぎゅっと握り返され、導かれるように前に進む。さっきまであんなにあった恐怖心は、いつの間にか消えていた。
「…っあ、ありがと」
「ああ」
私が渡り終えたら、握られていた手はすぐに離れていった。顔が心做しか熱い気がする。クラウドの顔を見れないまま、礼を言う。今のは、可愛気なかったかな。…って、違う、そうじゃない。そもそも様子がおかしいクラウドが悪い。なんてひとり頭の中で否定と肯定を繰り返す。
「大丈夫だ、エアリス」
「うん」
そんな声に後ろを振り向くと、エアリスが床板を進んでいるところだった。安心させるように掛けた優しい声と、ついさっき私にしたように伸ばされた手。瞬間、心臓に小さく走った痛みに首を傾げる。クラウドはぶっきらぼうに見えて、意外と誰にでも優しいんだった。チクチクと小さく痛む胸をそっと抑えた。
エアリスがその手を取ろうとした瞬間に、階下から扉が勢いよく開かれる音がして、兵士が中に飛び込んできた。それに続くように、兵士に肩を借りてふらふらと入ってくるタークスの男。
「──っ!」
「どこだ!」
ここから下が丸見えなんだ。逆に言えば、下からだってここが丸見えのはずで。案の定、辺りを見渡していた兵士のひとりがこちらに気付いて銃を構えた。