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「クラウド!違うっ!…え?」
「っまた…!?」

慌てたように、違うと叫ぶエアリスと、突然クラウドと男の足元から生え出るように現れた、黒い影。今朝見たばかりのそれはクラウドの身体を飲み込み、気付くとエアリスと私の身体も霧の中に呑まれ、抗えず身体が宙に浮く。なに、なにが起きてるの?どこに向かっているのか、急激に後ろに引っ張られるような感覚に襲われる。

「きゃああ───!」
「わ、っ──!」

訳が分からない感覚に悲鳴をあげながら、目に入ったのは、目を丸くして怪訝な表情のタークスと、扉から飛び込んできた増援の兵士だった。

バタン、と扉が締められる大きな音と、乱雑に放り出される身体。

「いっ……たぁ、…っげほ」

最悪、肩からいった…。ズキズキ痛む右肩をさすりながら、起き上がる。どこ、ここ。人の出入りが長い間なかったのか、嫌に埃っぽい空間に咳き込む。吹き抜け構造になっているのか、上階は丸見えで、かなり老朽化が進んでいて床が抜けている所も多い。近くで倒れ込んでいたクラウドとエアリスも、起き上がって辺りを見渡している。私たちの周りをふよふよと揺蕩う黒い影からは、何故か今は敵意を感じない。

「…こいつら……」
「…襲って、こないね」
「朝といい、なにがしたいの?この黒いの」

全くもって何がしたいのかわからない黒い影に、首を傾げる。ただ、なにかしら目的がありそうなのは間違いないとも思う。

「おい、開けろ!」

そんな時、扉の向こうから聞こえてきた兵士の怒声と、扉を強く叩く音。はぁ、あいつやっつけたのに、まだ諦めるつもりないんだ。クラウドとエアリス、ふたりと目を見合わせて頷く。ここは逃げるが勝ちってことね。

「こっち!」
「エアリス、危ないから気をつけて!」

出口を知っているらしいエアリスが駆け出して、その後をクラウドと追いながら声を掛ける。床の痛みがひどいから、いつどこが崩れてもおかしくない。

「ナマエ、肩は平気か」
「ん?…あぁうん、平気」
「ならいい。あんまり離れるなよ」
「……う、うん」

2階へと続く階段を登りながら、クラウドが私を見て訊ねる。多分、さっき肩をさすってた所を見てたんだろう。周りのことよく見てるなぁ、なんて関心する。…というか。魔晄炉爆破作戦から、クラウドがやけに優しいというか、なんかいつもと違うというか、上手く言えないけれど態度が違う気がして困惑する。さっきタークスのあの男から助けてくれた時も、その、抱き寄せられたりとか…。男に向かって発せられた不機嫌そうな声色とか…。あれ、クラウドってそういう感じじゃなかったよね?

「ナマエ、難しい顔、してるね」
「…っへ?あ、え、何でもない、大丈夫!」

少し前を歩いていたはずのエアリスが、いつの間にかすぐ目の前にいて不思議そうに私を覗き込んでいた。慌てて否定して、えへへと乾いた笑いがでた。

「…ふふっ」
「…エアリス?」
「ううん、可愛いなぁって」
「っな、なに…?」
「なんでもなーい」

にこにこと笑いながら急に訳の分からないことを言い出したエアリスに、なんとなく居心地の悪さを覚える。可愛いのは、エアリスだと思うけど、なんて心の中で返す。先を急いでいたクラウドを追って歩き始めたエアリスに、私も続く。ギシギシと嫌な音を立てる床をなんとか歩き、3階に辿り着いた。
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