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「その手を離せ」

そんな声が後ろから聞こえ、離れていく私の顔に触れていた男の手と、背中に感じる温もり。クラウドが片腕で私を抱き寄せ、バスターソードの切っ先を男に向けた。

「く、らうど…」
「見てわかんねぇのか、おまえ。取り込み中だぞ、と」

突然、男の纏う空気が変わる。相変わらず不気味に口角は上がったままだけど、ギラついた目は一切笑っていなかった。だからタークスは嫌なんだ、と内心吐き捨てる。

「あんたの相手は俺だろ。それとも、負けるのが怖いのか」
「はァ?」

心做しかクラウドまで、怒気をはらんだ声色になっている気がして大人しく様子を伺う。

「ナマエ、エアリスのところに行ってろ」
「…うん、でも」

回されたクラウドの腕が緩んで、早く行けと視線で促される。それに見て見ぬ振りをして、右足の足元に転がったダガーの柄を、踵で弾き上げる。後ろ手にそれを掴み、男へ素早く斬り付けてやる。すんでのところで躱した男の頬にダガーの先が触れ、赤い線が描かれた。

「忘れ物。じゃあね」

やられっぱなしは癪だった。鮮血がつ、と流れるのを親指で乱雑に拭って男はそれを見つめる。そして、笑みをさらに深く、眼光は獲物を狙うそれに変えた。怒らせちゃった、まぁいいか、なんて思いながらくるりと男に背を向けて、クラウドの指示通りエアリスの方へ向かう。

「ナマエ」

静かに呼ばれた名前に、一瞬足をとめる。

「………名前、最初から知ってたくせに。性格悪」
「ははっ!ナマエ、憶えとけよ、と。おまえを捕まえるのは俺だ。俺以外のタークスに掴まるんじゃねぇぞ、と」

その言葉にはもう何も返さなかった。すれ違いざま、クラウドと目を合わせて頷く。大丈夫、私には背中を預けられる、最高に格好良いバディがいるから。
離れたところで心配そうに手を伸ばしてくれたエアリスに自分の手を重ねて、やっと嫌な緊張感から解放され安堵の溜息が漏れた。

「話は終わりか?あんたにナマエは渡さない」
「はっ、騎士様気取りかよ。かったりぃけど…出番だぞ、と!」

男は警棒をクラウド目がけて振り下ろし、それ躱してクラウドは大剣で薙ぎ払う。スピードはあの男のほうが早いけど、きっと大丈夫。

「ナマエ、だいじょうぶ?」
「うん、ありがとエアリス。ごめん、私のせいで面倒なことになっちゃった」
「そんなこと、ない。あの人が来たのは、もとはといえば、わたしのせいかも」
「…んん?」

そう言えば確かに、と今になって思う。最初にあの男は、エアリスを視界に捉えていた。それと、エアリスもクラウドにボディガードの依頼をしていたし。エアリスがタークスに追われる理由って…?

考え込んでいた時、金属がぶつかる大きな音と、どさりと人が倒れ込む音。弾かれたように顔をあげると、クラウドの渾身の一振が男を突き飛ばしたようだった。ほ、と安堵する。

「っく…誤解だぞ、と。俺はただ──」

意味深に呟かれたそれを最後まで訊くことなく、クラウドが男に向かってバスターソードを振り上げる。
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