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「──貴様らを即刻、排除する!」

長く尤もらしい、プレジデント神羅の演技じみた演説が終わり、継いで現れたハイデッカーのホログラムがそう告げると、上空から例の新兵器が降って来た。ティファたちと分断するようにブリッジの中央に居座るそれに、相変わらず汚い手を使う、と吐き捨てた。

「許さない──。全部大キライ!」

ティファの、いつかどこかで聞いたような台詞をきっかけに、目の前のデカブツに剣を叩き込む。確かにハイデッカーが言う通り、そこらの兵器とは強度もパワーも違うらしい。
薙ぎ払い、斬撃を浴びせながら、頭の片隅で何かが足りないと思いを巡らせる。そうか、いつも俺と背中合わせで戦っていたナマエがいないんだ。我ながら女々しいと自嘲する。今はただ、無事でいてくれれば、それだけでいい。

ある程度ダメージを与えたかと思えば、面倒なことに都度形態を変える兵器。ところどころ接合部から火花が散る様子を見るに、恐らくあと少しといったところか。サンダーで怯ませつつ、その隙に畳み掛けるように斬り付ける。
その時だった。突然眼の前の兵器のアームが切り離され、それが離れたところで魔法を撃っていたティファの元へ飛んでいくのがスローモーションに見える。しまった、と思った時にはもう遅かった。

「ティファ!!」
「え…っきゃ───!?」

ティファの元へ駆け出し、名前を叫ぶ。だめだ、間に合わない──。

「──あっぶない、なぁ!」

聞こえた声と、轟音を立ててアームに落ちるサンダガ。雷を受けたアームは、ごとりと存外軽い音を立てて転がった。

「…っナマエ!良かった、無事だったのね…!」
「ナマエ!良いとこ持っていきやがって!助かったぜぇ!」
「えへへ、お待たせ」

中央の通路に立つその姿を見て、酷く安堵した。バスターソードを握った右手から、力が抜けるくらいには。はっとしてそれを握り直し、武器を落とすという情けないことにはならずに済んだが。
俺を真っ直ぐ見て駆け寄ってきたナマエは、いつもの位置、俺の背中に華奢な背中を預けた。微かに背中に温もりを感じる。

「遅くなっちゃった」
「…ああ、待ちくたびれた」
「うん、ごめんね」
「後で聞く。まずはこいつを落とすぞ」
「りょーかい」

傍に、ナマエがいる。それだけでこんなにも落ち着くのは何故なのか。それと同時に、失うのが怖いとも思う。初めて湧く感情に振り回され、戸惑う自分が愚かにさえ思えて、それを掻き消すかのようにバスターソードを、力の限り振り下ろした。
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最大限に高めた気力を込めて唱えたサンダガと、クラウドが振り下ろした斬撃で、エアバスターは火花を散らしながらぎしぎしと嫌な音を立てた。やばいかも、と思った時には、爆発の爆風で身体が空中に投げ出されていた。咄嗟に空に向かって伸ばした手が、掴まれる。上を見上げたら、やっぱりクラウドがいた。ああ、私いつもクラウドに助けられてる気がする。

「ナマエ!登ってこれるか!」
「…ごめん、無理かも。手に力が入らなくて」

多分さっきの爆発で、感覚が麻痺してる。痛みがあるわけじゃないけど、力が入らない。

「クラウド、私は大丈夫だから行って」
「断る」
「また即答。平気平気、これくらい。高い所、ちょっと克服しかけてるし」
「ふざけてる場合か。あんたにはまだあの時の文句を言ってない」
「…え、おこってる?」
「ああ、死ぬほどな」

こんな時に冗談を言い合ってる場合じゃないのはわかってるんだけど、腕を掴まれたままじゃ抜け出すことも叶わない。当のクラウドも、離す気なんてさらさらないらしい。それに、怒ってると言ったクラウドの表情は、本当に眉間に皺が寄せられている。

「おい!大丈夫かお前ら!」
「ナマエ、クラウド!」
「平気、今のところ」
「もうすぐ爆発する!なんとかして戻って来い!」
「ティファを連れて行ってくれ、バレット」
「…わかった、死ぬなよ」
「待ってバレット!いや、クラウド!ナマエ!!」

叫ぶティファをバレットが担ぎ上げて、走り去っていくのを見届けてほっとする。本当は、クラウドも一緒に行くべきだったのに。

「ナマエ」
「…うん?」
「飛び込むぞ」
「え──」

クラウドはそれだけ言うと、私が落ちかけている穴に、あろうことか地面を蹴って自分から飛び込んだ。私を抱き締めるように、回される腕と頬に感じるクラウドの胸板。これ、電車から飛び降りた時も同じだったな、なんて急降下する中でふと思う。力強いのに、どこか優しい腕。不思議とクラウドの腕の中は安心する。

「もう俺から離れるな──」

意識を手放す寸前に、耳元で囁かれた言葉。それが夢なのか現実なのか、浮遊感に侵される頭では判断もできなかった───。
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