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「──もーし、もしもーし」
「…ん、?」
「もしもーし?」
「う、…いたた…誰?」

間延びした呼びかけが頭上から降ってきて、そっと目を開ける。誰だろう…。上から降り注ぐ光のせいで、肝心の顔が見えないけど、声からして知らない女の人だ。ずき、と痛んだ頭を抑えて、ゆっくり身体を起こす。

「だいじょうぶ?」
「うん、ありがとう…」

目の前にいたのは、一言で言ってしまえば綺麗な人だった。くるくると巻かれた髪に、ピンクのリボンと優しい光を帯びた翡翠の瞳。ティファとはまた違う系統の、美人なお姉さん。

「……っう、」
「クラウド、大丈夫?」

目の前の人に気を取られていて今まで気付かなかった。私のすぐ横に倒れていたクラウドが身動ぎをして目を開いたかと思うと、飛び起きてすぐそばに置いていた私の腕を掴んだ。酷く焦ったように見えて、クラウドの顔を覗き込む。ホントに大丈夫かともう一度尋ねようとして、やっと意識が覚醒したのか、ちゃんと重なった視線と、ぱっと離された腕。

「っ……悪い。身体は平気か」
「うん、平気」

さっきのクラウドはどこかおかしかった。まるで、どこにも行くなと怯えたように強く掴まれた腕。今はもう離されている腕が、何故かじくじくと疼いた。

「ふたりとも、だいじょうぶ?痛いところ、ない?」
「うん、えっと…あなたは?」
「わたし、エアリス」
「クラウドだ」
「私、ナマエ。助けてくれてありがとう、エアリス」

どういたしまして、と微笑むエアリスに思わず見とれる。ふと、右手に何か柔らかいものが触れて、手元に視線を落とした。そうして初めて気づく、丁度私とクラウドがいる一角に咲く黄色い花。私、この花、どこかで──。

「また会えたね」
「…そうだったか?」
「えっ…覚えてないの?ほら、お花!」
「……ああ、花売りの」

クラウドが思い出したように言った言葉に、目を見開く。黄色い花、花売り、ピンクのリボン。頭の中でかちり、とピースが嵌る音が聞こえた。

『ザックスの彼女さんってどんな人?』
『そりゃめちゃくちゃ可愛い子。変わってるけど。花売りしてんだ』
『プレゼント、何あげたの?』
『リボン。ピンクのやつ。それがいいんだってよ』
『わ、綺麗な花!これどこから?』
『可愛い彼女から貰ってきたんだよ』

そっか、そうだったんだ。名前も顔も知らない、ザックスから話だけで聞くその人に、私もいつか会ってみたいと思ってた。この人が、エアリスが、ザックスの恋人。

「エアリス…」

自分がどんな顔をしていたのかはわからない。でも名前を呼んだ声は、多分びっくりするほど震えていた。振り返ったエアリスが、人差し指をたてて口に当てた。何も言わないで、とも、全部知ってる、とも取れる表情で。私はそれに、ただ頷くことしかできなかった。

「ナマエ?」
「…ごめん、なんかぼーっとしてたみたい」

突然黙り込んだ私に、怪訝な表情でクラウドが問いかける。はっとして、言い訳にもならない返答を咄嗟に返した。ふるふると頭を振り、今は一旦忘れようと気持ちを切り替える。いつか、エアリスとはちゃんと話をしなければいけないだろう。でもそれは今じゃない。

「ねぇ、エアリス。ここは?」
「スラムの教会。伍番街。いきなり、人がふたりも落ちてくるんだもん、驚いちゃった」
「あはは、無傷なのが奇跡かも」
「お花畑、クッションになったかな。運、いいね」

はっと気付いて私もクラウドも慌てて花畑から出る。自分たちが倒れていた場所を見て、あ、と思う。
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