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図星をつかれた気分だった。ここに来るまでの出来事を頭の中で反芻する。迷うことなくビックスの後ろに飛び乗ったナマエと、腹に回された白くて細い腕。それを見た瞬間、どろりと黒いものが胸に流れ込んだ気がして眉を寄せたのは事実だ。それが何を意味しているのかは、考えもしなかったが。
隣に立って空を仰ぐナマエを一瞥する。長い睫毛の間から覗く珊瑚色の瞳は、星を映してそれ自体が輝いているように見えた。それと同時に脳裏に過ぎる記憶。俺の下で、困ったように下がった眉と赤く色付いた頬。潤んで揺れる珊瑚色に、酷く感情を揺さぶられた。それはどこか、征服欲にも似たもので。こいつといると、自分の中の知らない感情を無理矢理引き摺り出されるような感覚を覚える。それが不思議と嫌ではないと思っている自分もいる。
「盛り上がってるね、中」
「…ああ」
「…いいなぁ、って思う」
ふと寂しそうに呟かれた言葉に、視線だけで聞き返す。
「家族って、あんな感じなのかな」
「…さあな。俺にも家族はいない」
「そっか。一緒だね」
そう言って泣きそうな顔で笑ったナマエに、返せる言葉が無かった。放っておけないんだと思う。その時、タイミングを見計らったように灯されたあかりに、小さく息を吐き出して、俺は裏口へと向かった。
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無事お目当てのものを拝借したクラウドが裏口から戻ってくるのと、ジェシーたちが正面玄関から出てきたのはほぼ同時だった。
「これでいいか」
「うん、ばっちり。ここからが、本番」
クラウドからカードのようなものを受け取ったジェシーが、気合いを入れ直すようにそう言った。
「どうするの?」
「これで七六分室の倉庫に潜入できる」
「…本気?」
仮にも相手が神羅なら、例え倉庫とは言えそれなりの警備があるはずで。咄嗟にそうジェシーに訊ねて、訊くまでもなかったと思った。だってジェシーの顔、真剣そのものだから。
「じゃあ行くか」
「わたしがひとりで行く。どこから何を持ち帰ればいいのか、知ってるのはわたしだけだから」
「あん?んじゃ俺ら、ピザ食いに来ただけかよ」
こんな時だけど、ピザと聞いてさっきまではあんなに気持ち悪さが込み上げてたのに、落ち着いたらお腹空いてきた。そう思って、やっぱりあの変態ソルジャーは絶対にいつか殴る、と心に決めた。あいつのせいで、ジェシーママのミッドガルスペシャルをみすみす食べ損ねた。
「ふふ、タダで帰すと思う?しかも、手練れの2人を連れてきておいて。ねぇ?」
「あはは、これだけで終わるとは思ってなかったけど。何したらいい?」
「クラウドとナマエは、陽動をお願い。ビックスたちは2人を手伝って」
そういうことね、と納得する。ジェシーが倉庫に忍び込んでる間、適当に引っ掻き回せばいいわけだ。
「合図の照明弾が上がったら、みんなは倉庫前の広場を正面突破。思いっ切り暴れて、できるだけ時間を稼いで」
「作戦の所要時間はどれくらいだ」
「それほど長くはかからないと思う。終わったらもう一度照明弾を使うから、この先の空き地で落ち合おう」
「りょうかーい」
話はついた、と歩き出したところでビックスに呼び止められる。
「待てよ、どうやってスラムに戻る?始発に紛れ込むか?」
「朝、早いんじゃないの?明日」
「ナマエの言う通り。それじゃあダメ。今夜のうちに戻らなくちゃ…。ま、方法は考えてあるから大丈夫。じゃ、また後で!」
それだけ言うと、ジェシーは倉庫に向かって走って行ってしまった。今夜のうちに戻る方法?もうバイクは乗り捨てたし、と考えて、まぁいいかと思考を放棄した。