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「ビックス、あとでちゃんと拾ってね!」
「ちょ、おい、ナマエ!?」

タイミングは今しかない。すぐそこまで近づいたローチェに向かって、私はバイクの座面を蹴って飛んだ。後ろから、ビックスの焦った声が聞こえる。

「よいしょ!」
「おや?これはこれは可愛いお嬢さん」

ローチェのバイクに飛び乗って、背後に腰を下ろす。相変わらず気持ち悪いこと言ってるなぁ。

「ねぇ、私とドライブ、する?」
「はっはっは!いいねいいねぇ」
「でしょ?行き先は、…あの世」

右腰のダガーに手を掛けて、引き抜こうとした時だった。

「振り落とされないでくれよ!」
「っは!?ちょ、ちょちょ、」

がくん、と大きく身体が揺れて、慌ててダガーから手を離してローチェにしがみつく。あろうことか、またあのぐるぐる回る訳の分からないドリフトをし始めた変態。もちろん変態はローチェのことだ。

「ま、まってそれは聞いてないいぃ!」

物凄いスピードで目の前がぐるぐるして、視界が定まらない。やばい、これ、吐く…!

「ナマエ!」

どこかからクラウドの声が聞こえて。金属が切れる独特の音と、衝撃。やっと、ぐるぐるが止まった。まだ回る視界でなんとか前を見ると、クラウドがローチェのバイクに飛び乗って、大きな亀裂を入れたところだった。た、すかった…。

「おい、無事か」
「…な、なんとか」
「あらら、ここまでか。残念」

ローチェが亀裂を見て、心底残念そうに呟く。ざまあみろ、とぐわんぐわんする頭で悪態をついて、クラウドと同時にそれぞれ元いたバイクに飛び移る。ローチェは、また勝負しようとか約束とかなんとか言って、いなくなった。ビックスの後ろに戻った私は、その広い背中に凭れ掛かる。

「ナマエ!バカ野郎、なんて無茶しやがる!」
「……うっ、おぇ」
「お、おい!?吐くなよ!?」

ビックスが怒鳴ってる声が聞こえるけど、ごめん、今はそれどころじゃない。胃が口からまるごと出そう。あの変態、絶対に許さない。

「はぁ…、あんたバカなのか」
「…うぅ、クラウド…助かった、ありがと」

溜息混じりの声が聞こえて隣を向くと、クラウドが本当に呆れたような顔で私を見てた。それに反論する余裕も今はなく、素直にお礼を言っておく。

「ほら、見えてきた!あそこから行くよ!」

ジェシーの声で、あぁ、やっと終わった、と安堵した──。


「ナマエさんホントに行かなくていいんスか?」
「ナマエが来たら、ママ喜ぶのに」
「うん、ごめん、やめとく…まだ無理。ピザ見たら吐く自信ある…、うぅ」
「「自業自得だ」」

今キレイにハモったよね、クラウドとビックス。あれからバイクを乗り捨てて、徒歩でプレートの七番街まで上がってきた私達は、ジェシーのお家の前で次の作戦を始めるところだった。まずはジェシーのお母さんの注意を皆で引き付けて、その間にクラウドがあるものを拝借してくる、といった作戦らしいけれど、ピザと聞いた瞬間に少し落ち着いていた気持ち悪さが加速して私は外で待機させてもらうことに。
クラウドと私以外の3人が家の中に入っていくのを見送って、ふぅ、とやっと一息。壁に凭れ掛かるクラウドの隣で、私も同じようにする。

「あかりが、合図?」
「らしいな」
「そっか、じゃあまだしばらくかかるかもね」
「ああ。で、まだ具合悪いのか」
「だいぶマシ。でもしばらくバイクは乗りたくない…」
「無茶をしたあんたが悪い」

ぐぅの音もでません、なんて返して笑う。そういえば、とふと思う。最初はなんだか気まずいなんて思ってたけど、気が付けばクラウドと普通に話せてる。私自身、突然のことでびっくりしただけだったんだろう。今は不思議と凪いでいる気持ちに、ほっとした。

「クラウド、そういえば」
「…ん?」
「さっき、機嫌悪かった?」
「……いや、別に普通だ」
「だよね。ビックスがそう言ってたから」
「気のせいだろ」

ちらり、と横にいるクラウドを見るけど、その横顔は相変わらず何を考えているか読み取れない無表情で。ふーん、と適当に返事をして、私は無数の星が煌めく空を見上げた。
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