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それからひっきりなしに来る警備兵やら警備ドローンを手当り次第に蹴散らして、どれくらい走っただろう。ふと、バイクが通り過ぎる瞬間に目に入ったものに首を傾げる。
「…ん?」
「どした、ナマエ?」
「今、誰か立ってなかった?」
「あん?気のせいだろ」
ほんの一瞬、魔晄の目が見えた気がする。誰も気付かなかったなら、気のせいかと思い直した時、左を走るクラウドと目が合った。何も言わずに、視線だけ。でも言いたいことはわかった。やっぱりね、とクラウドに頷いて返す。気のせいじゃなかったらしい。
「はぁ…。ね、ビックス、もう少しスピード出せないの?」
「あぁ?これが限界だ、バイクにまで無茶言うな」
「あはは。それなら、ビックスの寿命が縮まらないうちに、済ませないとね」
「おい、さっきからなんなんだよ。不穏なこと言うな」
長いトンネルの終わりが見えてきて、プレートで遮られていない夜空が視界に広がる。多分、ゆっくり眺める暇はもらえなそうだけど。そろそろかな、なんて思ってたら案の定、周りを取り囲んでいた警備兵達が一斉に引き返していく。そして急激に近付いてくる、これまでとは違うバイクの音。かと思ったら、あれ?何故か物凄いスピードで私達を追い抜いてった?
「おっとっと〜!気を抜くとすぐに追い抜いてしまう!」
えぇ…。なにこの強烈なキャラの人。しかもそのぐるぐる回るパフォーマンス、いる?
「クラウド、接近戦は任せていい?援護、する」
「ああ」
クラウドに向かってそう声をかけて、ダガーは一先ず鞘に納める。このバイクじゃあいつに追いつくのはほぼ不可能だし、追いついたとしてもさっきまでの戦法は使わせて貰えないだろう。大人しく魔法でも撃っておこうと、マテリア装着済みのバングルに触れる。
「レディとドライブかい?私も混ぜてくれよ!」
あ、嫌いだこいつ。直感的に思って、とりあえず返事代わりにエアロラをぶち込む。が、上手いこと避けられた。
「おおっと!おいおい無粋なことはよしてくれよ!じゃ、ここは男同士、競争をしようか」
「…俺に言ってるのか」
「他に誰がいる?」
「断る」
即答したクラウドに、そりゃそうだと苦笑する。
「聞こえない、聞こえないねぇ!遠すぎて耳に届かないよ!」
言ってることはただただ気持ちが悪いけど、確かにこのソルジャーのスピードは普通じゃない。
「なんなのこいつ!」
「いい質問だお嬢さん。私はローチェ。人は私をこう呼ぶ、スピードジャンキーと!」
ジェシーの声に、誇らしげに返すローチェというソルジャー。バイクの性能差もあって、撒いて逃げるわけにもいかないし、ここはやっぱりクラウドに頑張ってもらうしかないかもしれない。ビックスの寿命も心配だし。
「この人、ニガテ」
「ジェシー、奇遇。私も」
「お嬢さん方、聞こえてるよ!」
はぁ、と溜息が出た。とにかく少しでもスピードを落とさせないと、こっちが手も足も出ない。それなら狙うのは車体。集中して、バイクのタイヤ部分に、ファイガを放った。命中したそれのおかげで、ローチェのスピードが目に見えて落ちた。