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暫く風を切って走っていると、後方から微かに、私達以外のバイク音が聞こえてきた。

「やっぱり来ちゃったか」
「そりゃこんな時間だからな」

事前にジェシーから聞いていた通り、こんな真夜中にIDスキャンが走ると警備兵が来るかも、という話は当たっていた。バイクでの戦闘は経験ないけど、まぁ見た感じ下等兵だろうし問題なさそう。

「なぁ、ナマエ。気のせいだったらいいんだけどよ」
「んー?」
「クラウド、なんか機嫌悪くねぇか?」
「え?なんで?」

もうそろそろ追い付かれるかな、なんて後ろを見てたらビックスが突然そんなことを言い出した。私達の左側、少し離れた位置を並走しているクラウドをチラリと見て、首を傾げる。うーん。別に、いつもと同じに見えるけど。そんなことよりさすが元ソルジャー。大剣を片手に引っ提げながらも抜群のバランスを保って運転してる姿は、お世辞抜きで格好良い。

「さあな。俺が聞きたいくらいだぜ。っと、おでましだぜ。いけるか、ナマエ!」
「うん、まかせて。ビックス、出来るだけ敵に寄せてね。この武器、射程不足だから」
「おいおい、無茶言うぜ。それなら大人しくクラウドの後ろ乗っとけばよかっただろ」
「ビックスなら出来るって信じてるから」
「…ったく、しょうがねぇな!」

大袈裟にウィンクして見せると、ビックスは大きな溜息をついて、それからあえてブレーキをかけてスピードを落とした。どんどん近付く敵との距離に、右腰からダガーを抜く。

「さすがビックス、完璧!…ちょっと揺れるかも。我慢して、ね!」

あと少しでバイクとバイクが触れるくらいの距離まで寄せられた一瞬の隙に、ビックスのお腹に回した左腕にぐっと力をいれて、右側に半身を乗り出す。重心がズレて傾く車体に、情けない声をビックスがあげた気がするけどそれを無視して警備兵の喉元に素早くダガーを滑り込ませた。突き付けられた切っ先に、こっちはこっちで情けない悲鳴をあげた警備兵が怯んだのを見て、右足で思いっ切り相手のバイクを蹴り倒す。

「よいしょ、っと!」

物の見事にバランスを崩した警備兵は、そのままバイクと一緒に転がって行った。軽い怪我じゃ済まないかもしれないけど、死ぬことはないだろうと心の中で謝る。

「ナマエ!怖ぇだろうが!勘弁してくれ…」
「あは、ごめんごめん」
「ナマエ、やるぅ〜!今のはシビれたっ」
「ナマエさーん!かっこいいっスー!」

ビックスは怒ってるし、ジェシーからは冷やかされるし、ウェッジはキラキラした目で見てるし、ほんと賑やかなツーリングだな、なんて苦笑する。

「おーいクラウド、こいつ貰ってくれよ…。これ以上寿命縮めたくねぇ」
「断る」
「え、どっちもひどくない?」

なんで2人して私を押し付け合うんだ。しかもクラウドに限っては即答だったし。

「ナマエ、無理はするな」
「へ?」
「ビックスの寿命のためだ」

クラウドから掛けられた意外な言葉に、ちょっとだけドキッとして、そして続けられた言葉に思わずなんだ、と思ってしまった。…いや、なんだ、ってなんだ。ふるふると頭を振り、任務に集中する。

「さ、また来たみたいだよ!皆、気張ってこー!」

ジェシーの言葉通り、後方からは複数のバイクの音。結構骨が折れるな、なんて心の中で悪態をつきながら、私は再び両腰のダガーに手を掛けた。
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