short novel

二万年後の未来へ





 降り立ってみると、そこは見渡す限り一面の碧が広がっていた。



 風が駆けるとさらさらと葉が触れ合ってメロディーを紡ぎ、日光を柔らかく反射して木漏れ日を作る。


 この視界では捉えきれないほど先にも同じ光景が広がっているのだろう。


 幹は彼女の両腕では抱えきれないほど太い。それもそのはず。この木々はどれも樹齢一万年近いのだから。両端に大きく広げた枝を携えて、木は一本一本誇り高く彼女と対面しているのだった。



 しかしそれでいて、天高くそびえ立つ木々は彼女にどことなく穏やかで安心感を彼女に与える。





 確かに、彼はここにいる。彼は約束を違えてなどいない。そう、今度は彼女が約束を守る番だった。





「大丈夫、私は独りなんかじゃない」



 今は彼の心の欠片がこの先にずっと広がっている。たとえ本人と会えるのがあと一万年先でも、彼女はそれだけで十分だった。





「また一万年後に会いましょう」



 彼女は木漏れ日の隙間の、薄い雲のさらに隙間の澄んだ空に向かって呟いた。





 彼はその声を一万年後に聞くこととなる。





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