ついのべ

空におちる夢をみた
140字の文章 配布元・お題は後書きに記載

進化
ずっと夢を見ているのかもしれない。脈打つ鼓動は段々弱くなり、手をかざせば皺が目立つようになってきた。時折瞼に映る一面の野原への足取りの方が確かになってゆく。遠くで誰かが呼ぶ声がする。その瞬間全てを悟る。ああこれが私という人間の最後の進化なのだ。蛹から羽化する如く虚空へ。
August.14 後書き


俺はスターになる! そう言って故郷を出てから早10年テレビで彼を見る日はなかった。一体どこにいるのか。生きているのか。インターネットで彼の名を調べても出てこない。彼は自分の名を嫌っていたな。星がつく名字でも出てこない。まさかね。スターと検索すると、元気そうな彼の顔が私を見つめていた。
August.9


私の世界には、五つの月がある。一つ目は皆がご存知の夜になると浮かぶもの。二つ目は一つ目を追うように昇り夜更けに銀色に輝く。三つ目は誰も見たことがないという伝承で伝えられてきた虹色に光る月。四つ目は太陽と共に昇る。最後の一つは、私の前で微笑む貴方の名に隠されているのです。
July.14 後書き


喝采が反響する。夢の舞台で両手を広げターンを決めながら頭上からも降る拍手を余すことなく受け止める。瞼を閉じ余韻に浸り視界を開いた刹那、音は止まない雨が爆ぜる飛沫へかわる。続けなければ夢は叶わない。いくら不可能でもそうなのか。視界は真夏の純度へ傾く。これは、いつか予知夢になる物語。
June.30 後書き


片思いしていたクラスのアイドルに彼氏ができた。僕は学校の七不思議を試してみることにした。特別棟屋上へ続く階段の踊り場の鏡。雨の日に一人で午後6時6分6秒に見ると自分が最も愛するべき人が映る。僕は一人鏡を見て呆然とする。そこには泣き腫らして目の下にくまをつくったひどい顔の僕がいた。
June.27 後書き

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