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伊留(リコッタに捧ぐ)


 ごろりと転がった板張りの床は、冷たくて気持ちよかった。汗をかいてぺたぺたする肌は表面だけはひんやりとしている。体温を直に反映する掌を腕に当てれば、じわりと熱が移った。こうして己を抱きしめるように縮まっていれば、寒がっているように見えるだろうか。日向では、太陽がギラギラと停滞した空気を容赦なく照り付けているというのに。
 外では蝉が、己が生を主張するように煩く鳴いている。そこ此処から聞こえる蝉の声は、自分を世界から切り離してしまうように思えた。まるでこの世界に一人ぼっちのような錯覚。茹だるような暑さの中、この暑さで熔けて流れて消えてしまえば、俺は世界と同化するのかな。なんて頭の沸いた事を考えて、可笑しくて口元だけで笑った。
 ぐるり転がって仰向けになると、頭の上、入口の方に見慣れた緑の人影。あ、熱を吸い取って温くなった床と違って、背中にべたりと張り付いた床はまだひんやりしていて気持ちいい。最初からこうしておけばよかったな。
「…………とめ、」
 は、と意識が浮上。もう一度頭上を見遣ると、まだ入口にいた伊作が中に入ってきた。ギシリ、板を軋ませて近付き、転がる俺の隣にすとんと腰を下ろした。
 暑さでぼんやりとする頭でいさく、と呼び掛けたけれど、掠れてあまり音にならなかった。それがなんだか無性に寂しくて、ごろりとまた寝返りをうって伊作の方を向いた。
「……留三郎? どうかした?」
 あんまり情けない顔をしていたからだろうか、気遣うような声を上げて、伊作が汗で張り付いた俺の前髪を掻き上げる。くしゃりと髪に触る手が気持ちよくて、ゆるりと目を閉じた。
「……留? 寝ちゃうの?」
 小さな伊作の声にこくりとひとつだけ頷いて、おやすみ、と声に出さずに呟いた。
 外はこんなにも暑いけれど、さらさらと髪に触れるぬくもりからは何故か離れ難い。
「おやすみ、留」
 薄く笑みを含んで囁く伊作の声を聞いて、俺は微睡みの中に落ちていった。


 了














6ろ+仙蔵とメールのお礼その他諸々感謝を込めて!
伊作も食満も初めて書いたけどなかなか楽しかったです(´`*)ウフフ
リコッタありがとう!

20110815.


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