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食満にょ食満

※食満×食満♀








『………けま?』
私が新入生、そして新入部員としてこの学園のハンドボール部に入って、初日のことだった。
まだウェアの揃えられていない一年生(私も含めて)はまだ真新しい体操服に身を包み、先輩方の見学と軽い運動を言い渡され、そこここに散っていた。
近くにいた子と軽く談笑していたら、名前を呼ばれた。振り向くと、背が高く、吊り上がった眼が特徴的な、ハンドボールのウェアを着た先輩。
『お前、“食満”っていうの?』
何故か不思議そうな顔をして名前を尋ねる先輩に、よくこれけまって読めたなと思いながら肯定を返した。
『へぇ、珍しい。あ、俺もな、“食満”なんだ』
感心したような声を上げて、ちょいちょい、と自分の胸の辺りを指して言う先輩。その指の先には、確かに鮮やかな色で“食満”と刺繍されていた。
『苗字が同じ奴なんて初めて会った。俺は食満留三郎だ。よろしくな、“食満”』
カラリと笑った彼はそう名乗って、手の平を差し出した。
私もその大きな手を取って、よろしくお願いします、と名前を言った。
それが、私と『食満先輩』との初対面だった。





夕陽落ちるグラウンド。部活生がざわざわと長い影を伸ばして動く見慣れた景色には特に抱く感慨もなく、いましがた終わったばかりの練習でかいた汗を自らの服で拭う。そしてすぐにきょろきょろとあたりを見回した。
(女子のほうが先に終わってたよな……まだ部室か?)
汗で濡れた服を着替えるのに、男子ハンドボール部と書かれた扉に向かって歩きながら考える。チームメイトが話しかけてくるのに適当に相槌をうちながら、運動部室の集まるグラウンドの一角を見た。
ガチャリ、と割と大きな音がして、自分が目指す部屋の先の扉が開いた。中から出て来たのは数人の女子生徒。その中にさっき自分が探していた顔を見つけ、知らず頬が緩んだ。
同時に彼女もこちらに気づいたようで、俺を見て、その特徴的な吊り上がった目を細めてにこりと笑い、間の数メートルの距離をタタッと小走りで詰めた。
「食満先輩! 男子部は今終わりですか?」
「おう。女子部ももう終わってるよな? 着替えてくるから待ってろ、一緒に帰ろうぜ」
「はい!」
犬みたいに駆け寄ってきた彼女の手触りの良い髪をくしゃりと撫でて、足早に部室に急ぐ。中にいた数人にからかわれたが、すべて黙殺してさっさと部室から出た。


「わり、待たせたな!」
パタパタと忙しく部室から出て来た先輩が駆け寄る。もたれ掛かっていた壁から背を離して彼の隣に並び、一緒に歩いた。
「待ってませんよ。留先輩、早かったですね」
“留先輩”という呼び名は、私だけの特権。部活も終わったし、今からは、『先輩後輩』じゃなくて『彼氏彼女』だから。なんて、恥ずかしいけれど。
「そっりゃあかわいいカノジョが待ってますから? 急ぐだろフツー」
ニヤリと笑って言う台詞にかかかっと顔が熱くなった。
それを見て先輩がまた言うのだ。
「っはは、お前、かっわいいなぁ!」
先輩は目を細めて笑い、ぐしゃぐしゃと私の頭を掻き混ぜるように撫でる。
部室前でもやられたそれが、恥ずかしくて、嬉しくて、ドキドキした。
しばらくわしゃわしゃとしていた手が、髪の毛を梳くように大雑把に整えて、満足したのか頭から離れる。
ちょっと残念、と思ったのもつかの間、その手は私の手と絡まった。
バクバクと鳴る心臓がうるさくて、隣の先輩に聞こえそうだ、なんて考えて、それでもやっぱり触れ合えることが嬉しくて、絡んだ手にギュッと力を込めた。


かわいいかわいいかわいい。やべえやべえこいつまじかわいいんですけど。
手ぇ繋いだら、真っ赤になるくせに余計に握ってくるとか、ほんと、反則。
そんなかわいいかわいい俺の彼女と、ちょっとでも一緒にいたくて、わざとゆっくり歩いているのを、コイツは気づいているだろうか? なんて、教えてやるつもりは、ないけど。
自分の意志に反して勝手に緩む頬もそのままに、他愛ない話をしながらの帰り道はとても幸せだ。
この坂を上りきったら別れ道、俺と彼女の家は反対方向だ。名残惜しくて、坂が急なのを言い訳に鈍くなる歩み。それでも歩いていればいつかは着いてしまうもので。
坂のてっぺんで2人、手を離す。
「それじゃ、留先輩、また明日」
「おう、気をつけて帰れよ?」
「大丈夫ですよ!」
「はは、またな」
軽く言い合って、それぞれ反対に進んだ。それでも俺は気になって、3歩目で立ち止まり、振り返る。
背を向けて歩く彼女にすごく寂しくなって、思わず大声で名前を呼んだ。いつもならそこで離れられるのに、離れ難いのは、紅く燃える夕陽に当てられでもしたのか。
不思議そうに振り返る彼女のもとに走って、やっぱり、と思う。コイツの隣が、落ち着く。
「……どうしたんですか?」
「ん、やっぱ、送ってく」
「えっ!? そんな、悪いです、」
「いや、俺が心配で離れたくないだけだから。送らせろよ」
無理に頼めば、それでも嬉しそうに頷いてくれる彼女が愛しい。
また2人手を繋いで、同じ道を歩いた。


 了












ざ★中途半端!!ごめんなさい!!!
10/3はとめさんの日だよとか言われて書き始めたはいいがその日中にあげれず今日中にあげますとか言って結局日付跨いだよ。しかも出来上がったのがこんな中途半端とかひでぇなwwwうっ、もっと精進します……

20111005.


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