ドルドル千本ノック



「おい、そこの君、時間はあるか」
 バギーズデリバリー内の廊下を歩いていた私を唐突に呼び止めたのは、ギャルディーノ様だった。
 諸々の仕事が終わったところだ。それに、私たちのような下っ端がギャルディーノ様の命令を断るなどあってはならない事だ。私はこの後のスケジュールを思い出しながら、後回しにしても問題ないものだと判断して彼の言葉に頷いた。
「はい、手は空いております」
「個人的な頼みだ、断っても構わないガネ」
 彼はそうやって前置きをしてから、ワザとらしい咳払いをして少し恥ずかしそうに口を開いた。
「あー、彫刻のモデルになってほしいんだ」

 曰く、精度が落ちたとのこと。
 彼の悪魔の実であるドルドルの実は、様々な形を自在に作れるものだが、完成度は本人の技量に依存するのだと、ギャルディーノ様は教えてくれた。
 彫刻のモデルか、なんだかロマンチックでいいじゃない。と思いながら付いて行った彼の部屋だったが、最初想像していたモデルとはかけ離れていた。
 彼の目の前に立ち、ポーズを決める。すると、彼は一瞬のうちに私を模した彫刻を作り上げ、それが終わったらすぐにポーズを変える。クロッキーに近いそれを延々と繰り返した。
「はぁ、大分温まってきたガネ」
 最初と比べ少しずつ完成度の上がってきているそれを見て、ギャルディーノ様は満足そうに頷いている。
「付き合ってくれてありがとう、礼は何がいい?」
「ええっ、礼なんてそんな」
「まあ大したものはやれないガネ」
 ギャルディーノ様は腕を組んで私の言葉を待っている。私は少し悩んでから、自分が欲しいものを言ってみた。

「そのブローチ可愛いね、どこで買ったの?」
 同じくバギーズデリバリーの下っ端として働いている友人が私の胸に輝くブローチを見てそう言った。
「秘密」
 蝋で出来たそのつるりとしたブローチは、私のちょっとした宝物だ。



ドルドル千本ノック//2020.9.10

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