努力の成果
「ギャルディーノ様、レリの事好きだって!良かったじゃん両思いだよ!」
盛り上がる同僚を他人事のように見ながら、私が発せた言葉は「いや、私ギャルディーノ様と接点ないからそれは無いんじゃないの」というあっさりとした否定の言葉だった。
私がギャルディーノ様に淡い恋慕を向けるのは、間違いようのない事実だ。海賊という者たちは荒っぽく、一言で言ってしまえば頭の悪い者が多い中、バギーズデリバリーの幹部きっての切れ者である彼に惹かれているのは私だけではない。
荒くれ者の中に居ても同じように染まらずに上品な彼に憧れる者は少なくないのだ。
恋心を抱く者も居れば、ただ憧れ遠巻きに見てはきゃあきゃあと騒ぐ者も居た。私たちのようなヒエラルキーの底辺に居るただの小間使いからすれば、ギャルディーノ様など手の届かぬところに居るお方だ。
そんな彼が、何かの間違いだとしても私のことを好きなどありはしないのだ。存在が認識されているかすら怪しい。すれ違った時に挨拶をする程度の関係性だ、私からすれば憧れの相手だったが、相手からすればその他大勢以外の何者でもない。
噂好きな同僚が何か話を盛って井戸端会議に花でも咲かせたのだろう。大方、昨日の宴でギャルディーノ様が喋った女の好みが私に近かったとかその程度の事じゃあないのだろうか。まあ、それだとしても少し嬉しくはあるのだけど。
廊下の窓の掃除をしながらそんな事を考えていると、ふと、向こうから歩いてくる影があった。アルビダ様だ。
お疲れ様です。とご挨拶をする。いつもなら「ああ、おつかれ」などフランクな返事が返ってくるが、今日は不思議と違った。アルビダ様は私が拭いた窓を意味ありげにじっと見つめた後、美しい笑顔を私に向けた。
「もしかして、あんたがギャルディーノの言ってたレリかい?」
「はい、そうです」
えっ、ギャルディーノ様が言ってたってなんですか。本当に何か言ってたんですか。そんな、まさか私が存在を認識されていたなんて。
「アイツがね、あんたのこと褒めてたよ。掃除の仕方が本当に綺麗だってね、確かに随分とぴかぴかじゃないか」
あたしも思ってたのさ、掃除が上手い奴が居るって。アルビダ様はそう言うと、引き続き宜しく頼むよ。とその場を去っていった。私は口をぽかんと開けて暫くの間その場に立ち尽くしてしまった。
要は私は上司に仕事ぶりを褒められた。それだけの筈なのに、どうにも顔が熱い。
いや、それもそうだ。私は今まで私の存在すら認知されて居ないと思っていたのに、まさか、仕事をしているところまで見てもらって居たなんて思いもよらなかった。
(仕事、頑張ってきて良かったな)
廊下に並ぶ残り数十枚の窓を見つめて、私は一人ガッツポーズをした。
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