ジンジャーティーと長い夜



 海賊であるという時点で夜は短いものだが、やはり夜中の二時は比較的静かなものだ。
 消灯した敷地内をカンテラで照らしながらのんびりと歩く。不審者が居ればベルを鳴らすことが本来の役割のはずだが、どちらかと言えば私の主な仕事は、お酒を飲んで廊下や部屋の隅っこの方でだらしなく転がっている者を叩き起こして寝室へとお帰り願うことだ。今や七武海となり数ある強豪海賊団の一員になったこの「バギーズデリバリー」に喧嘩を売る者などほんの一握りだけ。だから、この見回りは比較的平和なものなのだ。稀に面白いことだってある。眠さはあるが、私はこの一人きりの夜中の散歩が嫌いではない。
 ふと、廊下の少し先に灯りがともっているのが見えた。灯はどうやら給湯室のもののようだ。

 もしも灯りが消し忘れなのであれば、私には消灯する義務がある。
「誰か居るんですか?」
 声を掛けながら中へ入ると、そこに居たのはギャルディーノ様だった。
「おや、見回りカネ」
 ご苦労様。と言う彼の手にはティーカップが握られている。確か、彼は紅茶が好きだった筈だ。洒落たティーカップは彼のお気に入りなのだろうか、つるんとした陶器のカップと、揃いのソーサーは彼に似合っている。
「こんな時間に紅茶飲んだら、眠れなくなっちゃいますよ」
「逆だ、眠れないから飲んでいるんだ」
 ギャルディーノ様はからからと笑って、自分が飲んでいる紅茶の缶を私に見せた。ジンジャーと書かれ缶を見て、ハーブティーなのだと納得した。
「淹れたものがまだ少し残ってる、君も飲むカネ?」
「えっ、良いんですか?」
 私は思わぬお誘いに私はその時よっぽど目をきらきらとさせていたのだと思う。彼は「紅茶の淹れ方には自信がある、期待して構わないガネ」と言ってまた笑った。

「おいしい……!」
 紅茶の味など殆ど気にしたことが無かったけれど、ギャルディーノ様が淹れてくれたこの紅茶がとびきり美味しいものだというのは理解が出来る。紅茶のブランドが良いのか、はたまた彼の腕が良いのか、きっと両方なのだろう。
「それは良かったガネ、口止め料だと思って飲んでくれ」
「口止め料?」
「この時間まで起きてるのをバギーに見つかると、無理やりにでも飲みに付き合わされる」
 座長の性格を思い出して、ありえそうな話だな。と私はひとり納得した。
「あの男は私を変に気に入っているからな。まあ大抵のことは許せるが、一人の時間ぐらいあったっていいと思うのだガネ」
 それから私とギャルディーノ様は紅茶を飲みつつお話しをした。座長のこと、リッキーに触ってみたいこと。のんびりと話しているうちに時間は過ぎていき、時計を見れば給湯室に入ってからニ十分も経っていた。
「ああ、いけない、そろそろ仕事に戻りますね」
「引き留めて悪かったガネ、私も部屋に戻ろう」
 給湯室の電気を消して、二人で廊下に出る。
 カンテラを再び灯して、暗闇に飲まれた廊下を二人きりで歩いた。
 コツコツと響く靴の音が心地良い。ギャルディーノ様の淹れてくれた紅茶で身体はぽかぽかしている。
 彼の部屋は近かった筈。少し残念に思いながらも「部屋まで送りますよ」と言うと、彼は少し眠そうな声色で「ありがとう」と言った。
 今の彼であれば、きっと。部屋までの道を一本間違えたとしても文句は言わないだろう。



ジンジャーティーと長い夜//2020.9.15

[ 3/8 ]

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -