恋は変わらず愛は大きく

 僕の人生で最も偉大な出来事は、彼、ベンサムその人を見つけたことである。
 同じ地域に住んでいた。関わりはそれだけだった。僕が仕事に行くときに毎日お昼ご飯を買うパン屋で、たまたま同じ時間に顔を合わせる事が多かった。ただそれだけだ。
 身長が高くすらりとした綺麗な身体つきに、少し派手な化粧を施していた彼は目立つ存在だったので、すぐに顔を覚えた。それに、あの気さくな性格だ。顔を合わせるようになってから数度目、かれから笑顔で挨拶されるようになって、僕はやっとじぶんの中で燻る恋心に気がついたのだった。
 それから、僕は自分でも信じられないほど必死に彼へアプローチした。
 恋の相手に男が含まれているかわからなかったから、まずは友だちから始めた。彼とは直ぐに友だちになれた。休みの日、二人で色々な場所に出かけるようになって、色んなものをみて、笑った。
 彼の恋愛対象は男女の拘りがないと知って、僕はすぐに恋心を抱いていることを打ち明けた。
 彼はとても戸惑っていた。僕たちには少し歳の差があったから、まずはその事。それから、彼の仕事が命に関わる仕事だから、僕を置いて逝ってしまうかもしれないことを気にしていた。
 だから、ごめんなさい。と言った彼の顔は悲しそうなものだった。だから僕は、諦めてなるものかと、彼にアプローチを続けた。
 僕は何度だって告白したし、彼は何度だって断った。
 けれどある日のこと、彼はとうとう観念したように「ホント、あんたって見る目があるわ。あちしも好きよ、レリ」と僕の眼を見据えて言った。その時の幸福感は一生忘れることはないだろう。

「あら、何考えてるのよぅ」
 ベンサムは目の前の自分以外のことを考えている様子の僕に少しだけムクれながら、それでも楽しそうにそう問いかけた。
「あなたと出会った時のことを、少し」
「そんな前のこと……あの頃のアンタは可愛かったわよ」
「必死だったんです、あなたに好いて貰おうと」
「好きだったわよ、あちしだってね」
「知ってますよ、だから頑張ったんですから」
 どんなにあなたが素直になれなくとも、僕さえ諦めなければきっといつか、あなたは僕の為にあなたの幸せを選んでくれると信じていました。
 そう伝えると、ベンサムは少し顔を赤らめて、少女のように恥じらいながら、そういうところよ。と言って顔を隠してしまった。

恋は変わらず愛は大きく//2020.8.7

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