形のある幸せ

 ああ、あの人の大きな指に、僕の選んだ指輪が嵌っていたらどんなに素敵だろうか。
 僕の淹れた紅茶を美味しそうに啜るベンサムを見て、僕はほうと息を吐いた。
「何よゥ、あちしのことそんな見て」
「いえ、ただあなたの指が綺麗だなと」
「あちしの指?」
 少しゴツゴツとしている彼の指。戦うひとにしては傷も少なく綺麗なその手は彼の戦闘スタイルが足技を中心としたものだと表している、彼らしいものだ。
「指輪、嵌めてみませんか? 僕が選んでプレゼントしますから」
「あら、いいの? 誕生日でもないのに」
「僕がプレゼントしたいんです、ね、お願いします」
 そうなの、ありがとう。じゃああちしも何かお返し考えなくっちゃね。と微笑むあなたが今日も愛おしい。

 朝起きれば、僕の左手の薬指にはきらりと光シンプルな指輪が嵌められていた。
 ベンサムが好きな深い青の宝石が真ん中に輝く素敵な指輪だ。
 いつの間に。僕はびっくりしてそれを眺めていると、ベンサムは二人分のコーヒーを両手に持って「おはよう」と言いながら何でもないようにそれの一つを僕に渡した。
「あの、これ」
「似合ってるわよぅ、素敵ね」
「その、えっと、嬉しくてなんて言ったら良いか」
 きっと、僕の顔は今真っ赤になっているだろう。今すぐ彼にキスをしたかったが、コーヒーを溢してしまいそうだったから出来なかった。
「渡し損ねてた、って言ったら怒るかしら」
 アンタに先越されそうだったから、夜のうちにこっそり、ね?
 ベンサムはそう言って照れ臭そうに、僕に笑いかけてくれた。
「……プロポーズは僕にさせてくださいね」
「ええ、そうね、待ってるわ」
 いつまで経ってもこの人には勝てない。僕の大好きな、素敵なひと。
 台所からは焼いたパンの香ばしい香りがする。朝ごはん楽しみです。と言えば、そんなアンタだから好きなのよ。と額にキスを落とされた。



形のある幸せ//2020.8.7

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