つづくことば その4

次の言葉の続きを考えま しょう。

詩や小説のタイトルにす るのも可

全体的に長いです。暇な時にでも。
ポジティブな和菓子職人の男の子と物書き系くよくよ男子のどうにも青臭い話。
時系列は一部を除いてばらばらです。が、机に対面して座っているか、台所にいるかのどちらかです(すいません、描写する気は端からなかったです)。
腐ってない。大丈夫、クサッテナイヨ!




*痛い痛い本当
神経質な指だ。
骨と皮とでしか出来てないんじゃないだろうか。細くて、長くて、節くれだった指。薄くて血管の浮いた手。
その手がゆるりと動き、桜餡を取り形を整えてゆく。その後、折角整えた餡の真ん中に窪み作り、別の餡、今度はこし餡を置く。桜餡でくるむ。また丸める。扁平な形に整える。
黙々と和菓子を作る奴の顔を盗み見れば、彼は息がつまるほど真剣な顔をしていた。平静の彼とは似ても似つかない。
続いて彼は名前も知らない半月型の分度器のような道具を手に取り、餡に立て、さくさくと器用に餡を回しながら溝を作ってゆく。食紅を筆に取り、溝に沿わせて塗ってゆく。
その様子をぼおっと見ていると、俺を知れずため息をついていた。

「どうした、吾妻。悩み事か?」

俺のため息を聞き、唐木はふっと筆を持っていた手を止めた。顔をあげ、こちらを見る。
さっきとはうってかわって、へらへらとした脱力する笑み。こいつの一連の和菓子作りを見るのは初めてじゃないが、いつも最後は拍子抜けさせられてしまう。

「そーゆーわけじゃねーよ。たださ、なんか、その手に職ついてる感じ?ウラヤマシイナって」

台所に頭を乗せて、気だるく唐木を見上げる。唐木は俺の言葉を受け、少し変な顔をした。苦笑いに失敗したような、困った顔。

「手に職って、俺は見習いもまだいいとこだよ。親父にはよく怒られるし」

再び、唐木は言いつつ筆を取りかけて、しかし止めた。俺の方を向き、へらりと笑う。

「今でも、趣味の域を出ないって言われたら、確かにそうだしね」

唐木は水に浸しておいた木べらを取り、弄ぶ。俺は思わず、台所に突っ伏した。嘘つけ。本当は余裕あるんだろ。

「俺もなんか、作ってみてーなー」

俺にしか、とまでは言わない。だけど、俺でもできる事はしたくない。俺がやらなきゃ始まんないような、俺が本気で満足できるようなそんな事がしたいんだ。唐木はそれを見つけてる気がして。同年代なのに。ひりひりと心がひりつく。掻きむしりたい。疼く。

「吾妻、小説書くだろ。お前の小説、俺は好きだよ」

「……はあっ!?」

俺が一人ぶすくれていると、あやすように俺の頭を撫でた。
唐木ののんびりとした声に、しかし俺はその言葉にオーバーな動きで飛び起きた。

「あんなの趣味で……」

「俺もおんなじようなもんだし」

あっけからんと笑われて、俺は失語する。唐木の和菓子は美味しい。見た目は精緻で可愛いし、甘さ控えめで食べやすい。でも、唐木の親父さんの和菓子はもっと美味しい。
言うべき言葉が見つからず、つい黙る。そっと唐木を見上げると、彼は耐えるように眉根を寄せていた。

「吾妻はばかだな。お前にはちゃんとした特技、あるだろ」

強がった明るい声が、降る。頭に置かれた手の重みが増した気がした。

「唐……」

彼を呼ぼうとして、しかし声が出なかった。重苦しい沈黙が俺たちを包む。

「今日のは少し甘めに作ってみたんだ」

それを打ち払うように、あるいは嫌ったのか、唐突に唐木は明るい声を出した。わざとらしいその声が、俺は嫌いにはなれなかった。
唐木は台に置きっぱなしだった桃色の和菓子を台にもたれたままの俺の前に差し出した。

「……これ、なんなの?」

「うーん、ピンク色だから桜、かな」

桜、ね。
俺はもぞもぞと緩慢な桜を取る。そして、躊躇いなくかじりついた。

「美味い?」

「……甘い」

端的な問いに同じく端的に答えると、唐木は困ったように笑った。そうか、甘いか。と、笑み混じりで呟かれる。なぜか、それがため息めいて聞こえて、俺は堪らなくなった。

「……桜」

「ん?」

「咲くと、いいな」

二口目を口に放り込みながら、俺は小さく呟いた。

「それは、……そうだね」

唐木は一瞬、なんとも言えないほど痛切な顔になったかと思うと、すぐに顔をくしゃくしゃにして笑った。
強がりが。
もぐもぐと餡を食べながら、心中呟く。
しかし、やはり俺は、そんな唐木の強がった心が嫌いになれないのだった。



*全部楽しい気がする
吾妻はパソコンは使わない。
一切をボールペン(彼は専らゲルインクを愛用している)のみで作り上げるのだ。一つの物を作り上げるのに様々な道具を使う俺とは全く対照的に。
紙とペンという質素な二つできらびやかな異界までも造り上げてしまう。
今だって、俺の目の前で机にかじりつくようにして、吾妻は何かを書いている。がさがさと、およそ小説を書くのには似つかわしくない粗野な音を立てつつ、吾妻は文字を書きなぐってゆく。ちなみに、こう言っちゃなんだが、あまり上品な光景ではない。まるで、机と一体になるようにして書いているから。


「できた……」

頬杖をついて、さして面白くもないミステリーの斜め読み。がっさがっさと対面の席から紙の擦れる音と、紙にペンを押し付ける音が忙しなく聞こえてくるが、大して気にしない。さすがにもう慣れた。
はあ。これは失敗だったなあ。楽しめない。
込み上げてくる欠伸を噛み殺しながら、惰性でページをめくっていると、対面に座っていた、少年、吾妻が嬉しそうなため息をついた。
彼の声につられて、顔をあげる。嬉々とした様子で、彼は机に散乱した原稿を纏めていた。

「へー、できたん?見せて」

俺はきっぱりと読んでいた小説を閉じた。
吾妻の文字はお世辞にも綺麗だとは言えないが、俺はそれでも吾妻の手書きの文字が好きだ。それが脳から直接引きずり出された風を装っていて、ひどく生々しくて。
この文字群は吾妻そのものだ。不器用な彼は自分を偽れずに文字を書く。文字にぶつける。そんな風に飾らずに自己表現が出来る彼が俺は羨ましい。
彼の原稿に手を伸ばす。彼は一瞬、怯えたように顔をひきつらせて、ぎゅっと原稿用紙を抱き締めた。

「え、やだよ」

「何で。これ見よがしに目の前で書いてたじゃない」

にっこりと意地悪く笑って見せると、彼は渋々原稿用紙を渡してきた。
毎回、毎回飽きないよな。結局は読ませてくれるくせに。
それが吾妻が覚悟を決めるためのイニシエーションなのか、それとも吾妻の手癖なのかは知らないが、少々面倒くさい。
所在無げに身をちぢこませる彼を敢えて気にせず、俺は受け取った原稿に目を通し始めた。
それは、どうしようもない程自分に鈍感で、悲しいくらい明るい女の子の、恋のはなしだった。

『全部全部楽しい気がする』
何が辛くて、何が悲しいのかわからなくなったなら、一言、呟いてみる。
――全部全部楽しい気がする。
その一言で、きっとすべてがうまくいく……

俺が一通り読み終えたのをみて、吾妻は弱々しくごめん、と呟いた。

「なんで、謝ってんだよ」

「なんかすげー、恥ずかしくなってきた」

恋愛小説なんて。
気づけば彼は耳まで真っ赤になっている。
確かに珍しいね。いつもSFとか歴史ものを書いてるのに。
そう言うと、彼はますます赤くなる。

「ちょっと、書きたくなったんだよ……。たまには、趣向を変えようとだな。……くっそ、もう、しねー」

「なんで。意外だっただけで、面白かったよ」

はい、と原稿を返すと、彼は突っ伏したまま手だけを伸ばしてそれを受け取った。

「全部全部楽しい気がするって」

声をかけると、吾妻はびくりと手をふるわせた。おずおずと吾妻が顔をあげたのを見計らって、言葉を続ける。

「ちょっとネガティブな言葉だよね」

「変か?」

「いかにも、お前がかいたんだなって感じ」

「俺がネガティブだって言いたいのかよ」

「そうじゃないって。まだどーせ、直しとかするんだろ、頑張って。完成、待ってるからさ」

にっこりと笑うと、なぜか吾妻はふいと俺から視線をそらした。あー、うん。と、なおざりに返事される。
彼の妙な行動に首をかしげつつも、特には考えないことにする。

(恥ずかしい奴だよな、こいつ)

吾妻の小さなため息を、俺が気づくことはなかった。


*自分に嘘つく為
たまに、わざと度の合わない眼鏡をかける。
常時姿勢が悪いせいか、俺は視力がかなり低い。普通はコンタクトなのだが、たまに眼鏡をかけたくなる。視界を眼鏡のフレームで遮ってしまいたくなるのだ。見たいものも見たくないものもフレームの外にあるものはすべて不要なものとして、切り捨ててしまいたい。しかも、度が全くあっていないから、フレーム内の視界もあやふやでぐちゃぐちゃで輪郭なんてあってない。そんな贅沢をしたいのかもしれない。
俺はこれをわりかし一般的な感情だと思ったのだが、

「ぜっんぜん、理解できん」

ばっさりと唐木に切り捨てられた。

「なんで」

「それ分かってもらえると思ってんの?」

「えー、うん」

頷くと、唐木は大袈裟な仕草で、空を仰いだ。なぜそこまで驚かれるのか。俺は眉間にシワを寄せて考えてみたが、結局わからなかった。

「……ったく、そんなしょうもない事考えてたのかよ。なにその考え方。疲れてんの?」

「あー、そうなんかな。たまに全部を拒否したくはなるんだよなー」

この拒絶感は椅子の背もたれに自分をすべて預けてしまえる、自分の甘さがゆえなのだろう。考えが甘い。見積もりが甘い。認識が甘い。そして、自分に甘い。
悪いのは自分なのに、それを認められないから、受け入れられないから、自分を騙して世界を拒むのだ。
だから、

「自分に贅沢したくなる。切って捨ててしまいたくなる」

椅子の背もたれは木製で、固くて、なんだか泣きそうになった。

「……拒むって、俺も?」

「から、き?」

天井を見上げていると、腕をつん、とつつかれた。気づけば唐木が机から身を乗り出して、俺を見ていた。
彼の視線が痛々しくて、それが少し――面白くて。

「……」

「だ、黙るなよ」

「みたらし」

「は?」

「言っただろ、疲れてんだよ。さっきまで作ってたやつ、」

あれ、食いてーなー。
唐木を見下ろして笑うと、みるみるうちに彼の顔は紅潮していった。

「なっ、おまっ!からかってたのか!?」

「さあ。とにかく、みたらし。俺以外に食わせる相手、いねーだろ」

なんだよー、とぷりぷり怒りながら、それでも唐木は台所に向かってくれた。みたらし、甘いんだろうか。甘いのが嫌いなわけではないがが平気な時もあるが、ダメな時もある。
今日は一体どちらかを考えて、ふと思い出して俺は、掛けっぱなしだった眼鏡を外した。
眼鏡を外した瞬間に来る、ぐらぐらとした目眩がひどく愛しくて堪らなかった。



*めがねの奥はなに考えてるの?
珍しく、吾妻が黒縁の四角いフレームを掛けていた。

「あれ、吾妻、眼鏡じゃん。どーしたの?」

何をするでもなく、椅子に座って俯いていた吾妻は声を掛けられて、ぎこちなくこちらを見た。レンズ越しに吾妻の沈んだ瞳がゆっくりと焦点を俺に合わさってゆく。

「ああ、これ?」

そうして、吾妻は眼鏡を一度上げて、こう言った。

「嫌い、だからね」


*
「ぜっんぜん、理解できん」

俺はつい不機嫌に言い捨てた。
吾妻は昔から少し沈みがちなところがあったが、ここまで酷いとは知らなかった。頭を覆いたくなるのを必死で抑えながら、俺は尚、吾妻に二、三問う。俺の問いに答えつつ、彼はキョトンとした様子を崩さない。なぜ、わからないのか。理解しがたいとさも言わんばかりである。
俺だってお前が理解できないよ、ばか。

「拒みたいんだ。なんでもいいから」

それは、分かるだろ。
と、言われて、俺は途端不安になった。もしかして俺も。なんて、こっ恥ずかしい考えが頭に浮かんで、一気に頭を支配した。頭を振っても振り払えない。堪らず、俺は吾妻をつついた。
吾妻がこちらを見る。
黒目がちな瞳が捉える。
俺は、と尋ねた声は恐らく震えていた。吾妻は暫く考え込むように黙っていたが、彼はやがてにやりと意地悪く笑った。
そして彼は思わぬ台詞を言った。いや、吐きやがった。
彼はその笑顔まま、俺を見下ろすようにして、

「みたらし食べたい」

と、言い放ったのだった。



*カーテンが揺れて
カーテンが揺れて、
唐木の姿を隠した。
唐木が見えなくて、
唐木の影も曖昧で、
揺れが収まったら、
唐木が消えてって、
なくなる気がして、
ほんのすこしだけ、
息の仕方を忘れた。



*エプロンのすそをひるがえして走る
今日のは自信作だから。
早く食べさせてやりたくなって、つい、家から着の身着のまま飛び出した。




お疲れさまでした。

感想などありましたら…
*一気に書き上げました。
さすがに時間かかったし、もうしたくないです。最後、まじで力尽きました。はふー


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[2012.1022]




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