月と星空に誓いを
「イテッ……」
何かに顔を思いっきり殴られたような感覚に驚き目覚め、夢の世界からいきなり現実世界へと引き戻された事に苛立ちを感じながら、オレはゆるりと首を傾け隣を見た。
「シーク……」
オレの隣には、豪快に大の字になりポリポリと腹を掻きながら心地良さそうに眠るシークの姿があった。目の前にはシークの小さな足。
先程の衝撃は、シークの足に蹴られた事によるものだった。
「ったく……大切な相棒の顔を蹴るガーディって一体どういう事だよ……」
相棒の寝相の悪さにぶつぶつと文句を言いながら、その場に半身を起こす。
辺りを見渡せば、昨晩酒を酌み交わしたままの状態で親父達が死んだように寝転がっている。親父のいびきは吃驚するほど煩い。
「しょうがねぇ……片付けておくか」
そう呟いて立ち上がり、床に散乱した酒瓶を集めていく。
途中、ジャックの足を踏ん付けたが、一瞬身体を起こしたかと思うとすぐにまた寝始めた。
「それイイ……」とか、ニヤけながら言ってやがる。こいつ本当バカだな。
その反面、ヒューは静かに寝息を立てている。少し脱げたフードから可愛いらしい三角の猫耳が見えている。
こういうのって無性に悪戯したくなるんだよな。耳をくすぐって息を吹きかけて引っ張ったら……。
いつもはクールなヒューの顔が真っ赤に染まる姿が思い浮かび、思わずほくそ笑む。
だが、今回は止めておいてやろう。皆、気分良く眠っている。
集めた酒瓶を手に表へ出ると、入口横にあるケースへ瓶を置き、夜空を仰ぎ見る。
今夜は満月だ。月が明るく辺りを照らすこの日だけは、ダークウォーカー達も姿を現さない。一番静かで穏やかな夜だ。
「サンドラ……」
君と良く、屋根に並んでこの月を見上げたね。
丸く大きく輝く月と共に幾千にも散らばる星の海を眺めながら、君は優しく微笑むようにオレの隣に居た。
時を重ねる毎に変わっていく星達を、とても嬉しそうに見つめていたね。
言葉は通じなくても、心は通じている気がした。
あの時間が何よりも愛おしい。もう決して戻る事はない時間……。
スッと頬を伝う雫と共に、空にも一筋の光が流れた。
サンドラも……泣いたの?
「やべ……何だか感傷的になっちまった……ハハッ。ガキじゃねぇんだし……」
ぐいっと腕で雫を拭い、もう一度丸く輝く月を見上げる。何だか月が微笑んでいるような、そんな気がした。
振り返り、部屋で転がっている皆を見遣る。親父も含め、どうしようもない連中。だけど、一番心地の良い空間。
大事な仲間。
大事な家族。
大事な場所。
護りたい、大切なもの。
「そこで見守っててくれよ」
月に向かってそう呟き、耳障りな音が鳴り響く中へと戻って行く。
パタンと扉が静かに閉まると同時に、空にはまた一筋の光が流れ、夜空は更に辺りを明るく――優しく照らしていた。
―END―
彼らがミアと出会う少し前のお話。