ミナコは口をぽかーんと開けたまま、アランを見つめた。
するとアランはおかしくてたまらないという顔をすると、笑いだしたのだ。
「くっくっくっ……君、なんて顔してるんだい?そんなに驚かなくてもいいだろう…」
「え…と、あなたは…本当に、Mr,アラン・リックマン?」
信じられない、という顔をしながらミナコが言ったその言葉に、アランは優しく笑う。
「いかにも、私はアラン・リックマンだが……今日こそは、君の名前を教えてくれるのかな?」
「へ?」
なんとも間抜けな声を出しながら、またもやぽかーん顔をするミナコを見たアランは、おや?という顔をした。
「憶えていないのかい?」
「何を、でしょう…?」
訳が分からない、という顔をするミナコに、アランは苦笑しつつ言った。
「あれは…一昨日のことだったか。ホテルの私の部屋の前で、一人の女性が面白いことをしていてね。カードキーを振っていたんだよ。
どうしたのかと思って声を掛けたら、倒れて気を失ってね、私の部屋へと運んだんだが…その後が面白かった」
アランはそう言うと、グラスの液体を一口飲んだ。
「その子は私がアラン・リックマンだとわかるとね、心のしっかり籠った告白をしてくれてね。名前を聞いたのに教えてくれなくて、その後にね―――くっくっ」
肩を震わせるアラン。笑いの発作を何とか抑えると、アランは言った。
「落ちたんだ」
「落ちた?」
不思議そうなミナコに、アランは頷いた。
「そう。非常階段から、真っ逆さまにね!」
ハッと口元を押さえるミナコに、アランは微笑む。
「あれにはさすがの私も本当に驚いた。いまだかつて、ファンだって告白された後に、私の目の前で階段から落っこちていった人なんて居なかったからね。救急車を呼んだんだが、無事で良かったよ」
ミナコは目を見開く。頬が、とんでもなく赤い。
だって……だって……一体誰が想像する?あのアラン・リックマンに介抱されたなんて!!
「ではMs,おっちょこちょい…君の名前を、今度こそ教えてほしいのだが…?」
アランが甘く微笑みながら言う。その台詞に、しぐさに、表情に、声に、ときめきが止まらない。
ミナコは顔を真っ赤にすると言った。ああ、信じられない………。
「ミナコ・シマタニ…です、Mr,リックマン……」
「ミナコ…ミナコというのか」
素敵な名前だね、と囁き、微笑んだアランは手を差し出してきた。
(あ、握手…ってことかな…)
ときめきで爆発しそうになりながら、そっと、震える手を差し出すミナコは、次の瞬間有り得ないモノを見た。
なんとアランは、彼女の手を取るとその甲にそっと、キスをしたのである。
「あ…あらん…さん……!」
するとアランは微笑むと言った。
「お目にかかれて光栄です…ミナコ…。ミナコ、と呼んでも?」
構う人など、この世にいるはずもなかった。
ミナコは身体も心も大混乱を起こしながら、それでもなんとか返事をする。
「はははい!」
ミナコの返事に、アランは笑ってきた。目尻にシワを寄せてとても、楽しそうに。
「ミナコは可愛いね…。ではミナコ、席に案内するよ?こちらに座ってほしい……」
アランはそう言うと、ミナコの手を取ったまま、席へとエスコートしたのだった。
(H24,1,14)
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