舞台は素晴らしいものだった。
主演のアラン・リックマンは勿論だが、その他のキャスト達が、一癖も、二癖もあり、演じる俳優達の演技が光っていた。
英語があまり得意でないミナコが観たので、十分に意味が理解できたかと言われたら自信はないが、彼女でも、おおよその内容は理解できた。
『面白かったね〜!もう一回観たいかも…』
友人も楽しそうに話してきた。
ミナコは微笑みながら言った。
『ホント。面白かったね!今回は付き合ってもらってありがとう。私だけじゃ、ブロードウェイなんて来られないものね』
『一生に1度あるかないかだもんね。私は構わないわよ?愛しのアランさんを見つめるミナコを見ているのは、楽しかったわぁ〜』
友人がニヤニヤしながらミナコをからかった。ミナコは、頬を真っ赤に染めると友人に反論する。
『もーやだ!そんなイジワル言ってぇ』
『フフフ…じゃ、食事に行こっか』
笑い合いながら、二人はブロードウェイを後にした。
ミナコは今回も、出待ちを諦めたのだった。というのは、凄いファンの数だったので。
大柄な外人に紛れる根性がないミナコだった。
それに……。
(胸がいっぱいで、アランさんの近くに行けそうもないし!私爆発するかもしれないもの)
自分を爆弾か何かだと思っているのか、ミナコはそんなことを考えていたのだった。
*****
そしてその日の夜。
友人とディナーを楽しんだミナコは、ホテルの前で別れ、フロントに寄った。
部屋の鍵を貰おうとすると、フロントマネージャーが、鍵と一緒に封筒を渡してきたのだ。
「Ms、シマタニ、こちらを預かっております…」
ミナコは目を見開いた。何故ならば、ここ、アメリカに友人と呼べる人は先ほどまで一緒にいた悪友のリサしか居なかったからだ。
(リサかしら…?サプライズ、とか?)
不思議に思いながら封筒を開けると、そこには一言、こう書かれていた。
Ms,Pert fellow
Waiting in the hotel bar
(おっちょこちょいさんへ…ホテルのバーで待っている、って意味かしら…リサのヤツぅ!)
(私のことをおっちょこちょいだなんて!)
ミナコはプリプリ怒りながらバーへと向かった。
怒っていたので、彼女は気づけなかったのだ。
メッセージが、英語であったこと、そして、リサとはまるで違う筆跡だったことに。
バーのドアを開ける。落ち着いたピアノの演奏が流れる中、ミナコは、リサを探した。
辺りを一生懸命探すが、リサがいない。
(おかしいわね…まさか、リサのヤツ、変装とかしてる…?)
そんなことを考えながら、カウンターへと向かったミナコは、そこで、信じられないモノと遭遇してしまうのだった。
彼女の耳に、バリトンボイスが響く。
「こんばんは、Ms,おっちょこちょいさん……」
そう、カウンターの前に本当にさりげなく、微笑みながら座っている人は、先程まで舞台に出演していた、アラン・リックマンだったのである!
(H24,1,13)
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