映画みたいな恋したい | ナノ

2 初めまして

『う〜ん…頭が…いた……』

「気が付いたかい?」

『………?』



男の人の声がする。なんで…?

目を開けたミナコの前には、心配そうな彼がいた。辺りを見回してみると、どうやら部屋の中にいるようだ。


『うそ…でしょ…?』

「気分はどう?すごく、酔っ払っているみたいだけど……」

その手が、ミナコの頭を撫でる。

「とにかく、頭は打っていないからね、そこは良かったよ」

「アラン……リックマン……?」

ぽつりと言ったその言葉に、彼――アランは苦笑してきた。

「そうだ、私の名は確かに、アラン・リックマンだが……お嬢さんの名前は?」

「わた――私の名前は……」


おぼつかない足取りで、立ち上がろうとするミナコは、とたんにバランスを崩した。

「危ない!気を付けて……」

「あ、ありがとうございます……」



ミナコは、信じられなかった。


どうして、アランがここにいるのか?舞台の間は、マンションを借りて住んでいると聞いている。
どうして、ホテルにいるの?


「本当に、Mr,リックマンなんですか…?」


信じられない、という顔をするミナコに、アランは困ったように笑ってきた。

「間違いなく、私はアラン・リックマンだよ」


『すっごい奇跡かも…っていうかこれ夢かな?すっごい酔っぱらってるし、なんか幻覚見てるのかもしんない……でも、夢なら――』

「?」

ブツブツと日本語で呟くミナコ。アランは当然ながら、ミナコが何と言っているのかなどわかるはずはなかった。

「やっぱり気分が悪いんだね。フロントに言って、病院へ行った方が――」

電話をかけようとするアランを、ミナコが止めた。

「ちょっと待ってください!」

「?」


不思議顔のアランに、ミナコは、深呼吸をすると言った。


(ずっと練習してきたんだもの…大丈夫、言えるわ)


「Mr,アラン・リックマン…お逢いできて、とても光栄です。私、あなたのファンです。あなたに逢いたくて、日本からやってきました。
あなたの演技…とても素晴らしいと思います!大好きです……これからも……ずっと…ずっと大好きですから……」


頬を染め、潤んだ瞳で一生懸命思いを伝えるをミナコ、アランはじっと見つめている。


ふいにふらついたをミナコ、アランがまた支えようとした。

「あっ…大丈夫です。ごめんなさい、ご迷惑かけて…。こんなところで、憧れの方に逢えるとは思っていなかったから…」

「君……」

「本当は今日も、イベントの後、お逢いできたら良かったんですけれども…勇気がなくて。
今言えて良かった!じゃ、失礼します…」

「ちょっと君……そっちは――」


迷惑をかけてはいけない思いと、緊張と恥ずかしさ、そして酔いが、彼女を狂わせた。


慌てて止めるアランの声も聞かず、彼女は部屋を出て行った。一瞬遅れて追いかけるアランは、信じられない光景を見た。彼はとっさに叫んだ。


「君!そっちは危ない――」

『きゃーっ!!』


アランの声に覆いかぶさるように、ミナコは悲鳴をあげながら、なんと落ちていった。
非常階段を。


「大変だ……!」


アランは慌てて、非常階段へと急いだ………。




*****


『で?』

『…ごめんなさい』

『ごめんじゃないわよ!お酒を飲ませたのは私なんだから、私にも責任があるけど…なんで、階段から落っこちた訳?』

『それが……憶えてなくて……』

『憶えてないってぇ?!』



ここは、病院のある一室。

ミナコは、階段から転がり落ちた後、救急車で病院に運ばれたのだった。
打ち身で済んだのだが、頭を激しく打ったこともあり(確かに後頭部に大きなこぶが出来ていた)、しばらく経過を見るため、入院することになったのだが…。

彼女は、何も憶えていなかった。

友人と別れてからの記憶が、綺麗さっぱりと消えてしまったようで、何も憶えていず、気が付いたら病院のベットの上だったという訳である。

『ま、大事なくて良かったわよホント…じゃあ、しょうがないわね。セミナーのチケットはダフ屋に売ることにするから』

『そんなぁ〜』

情けない声を出すミナコに、友人は呆れ顔だ。

『仕方ないでしょ!事故に遭っちゃったんだから。愛しのアランは諦めて。また、チケット取ってあげるから』

『ううう……』

本気で悲しい顔をするミナコに、友人は苦笑すると言った。

『それにしても、本気で…トラップだったわね!』

あのカクテル。笑いながら言われて、ミナコは反論した。

『そういう意味じゃないでしょ!』

『あははっ!でもさ、あの時間に、あんな場所で倒れてて、よく、救急車なんて呼んでもらえたね。誰が呼んでくれたの?』

友人の言葉に、ミナコは首を振った。

『わからないの。本当はお礼をしたいんだけど…』


そんな話をしながら、心はアランの舞台、“セミナー”へと向いているミナコだった。

(H24,1,9)


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