映画みたいな恋したい | ナノ

13 君一人に想われたら

したことは後悔していない。
そう…たとえ今、こんな状況に陥っていたとしても。


「で?アラン……なにか私に言い訳があるなら聞きますが?」

マネージャーが青筋を立てて怒っていたとしても。


「言い訳なんて…ないさ」

そう、言い訳なんてななかった。アランはミナコに、どうしても自分の気持ちをアピールしたかっただけだった。
アランの言葉にカチンときたんだろう。マネージャーが笑った。その笑い顔は楽しい笑い顔じゃない。ぞっとするような微笑みだった。

「開き直るつもりですか……」

アランはちょっとたじろきながらも(実際はかなり怖かったが)、言う事にした。
どうして、あんなことをしたのか、を。


「実は―――」




*****




釈明をしていたら遅くなってしまった。今夜はホテルに泊まることにしたアランだった。かなり遅い時間だったが、ホテルは融通を利かせてくれた。アランが長年利用させてもらっているホテルだからだろう。

疲れた体を労うために、アランはバスにお湯をはった。今日は森の薫りのバブルバスにした。

ジャケットを椅子に掛けると、ベッドへと寝転がる。大きく、溜め息をついた。



こんなに大騒ぎになるなんて、思ってもみなかったな、とアランは考えた。

テレビショウで発言した、アランにとってはミナコに宛てた愛のメッセージは、大きな波紋を呼んでしまった。
彼自身、長らくパートナーがいなかったからだろうが、あのプレゼントの相手が誰か、何とか知ろうとするマスコミが殺到してしまい、てんやわんやの大騒ぎになってしまった。

皮肉にも、それが舞台に良い効果をもたらし……連日満員らしい。そこは良かったとマネージャーが言っていたが…良かったのだろうか?


アラームが鳴り、バスの準備が整ったとを知らせてくれる。
シャツを脱ぎながらも、アランが考えるのはミナコのことだ。


こんなに大騒ぎになったのだ。肝心のミナコに、アランの想いは伝わったのだろうか。
周囲に伝わったとしても、一番の相手に認識されなければ意味がない。遊んでいると思われたかもしれない、とアランは考えた。

本当はすぐにもミナコの所に行きたい。あのプレゼントのお礼を言いたいし、色々なことを話したい。
何よりも抱きしめたい。ミナコ…君を抱きしめたいよ。


「日本は遠いな……本当に、遠いよ……」


森の薫りはアランを癒してはくれなかった。




*****



バスから上がり、濡れた髪をタオルで拭いていると、携帯が鳴った。どうやらメールが来たらしい。マネージャーだろうか。さっきの話をぶりかえしにメールしてきたとか…?
アランの説明に、納得してくれたと思ったのだが…演技だったのかもしれない。

アランは時々思うのだった。俳優であるアランよりも、マネージャーの方がずっと演技派だと。プロデューサーに掛け合うあの根性と、そして駆け引きは……アランには決して真似できそうもない。

そんなことを考えながら携帯をチェックしたアランは目を見開いた。だって――、


「ミナコからだ……」


喜びに、身体が震える。タオルを放り投げると、濡れた髪も構わず、アランはメールの文面を覗いた。




*****





To,Alan



こんばんは。まだ起きていらっしゃることを願って、メールしました。

先日、教えて頂いたアドレスにアクセスして、テレビショウを拝見しました。まだちょっと声がかすれているみたいでしたが、お元気そうでホッとしました。

けれど、とても驚きました!
まさか、テレビの収録に私が贈ったマフラーをして下さるなんて…!

気を遣って言って下さったのかしら?あの後、大騒ぎになったようなので心配です。アラン…大丈夫でした?

私は、お世辞でも嬉しかった…こんなこと言ってごめんなさい。だって……あなたはスターですもの、あなたのことを想っている人は沢山います。私だけではないでしょう?

日本にいると、アラン……あなたがとても遠く感じられてしまいます。

こちらはそろそろ桜が咲いています。ニューヨークはどうかしら?そちらにも確か、桜がありますよね?アラン、桜をご覧になったことがありますか?

もしもお時間があれば、一度、ご覧になることをお勧めしますよ!本当は一緒に見たいけれど……ああ、ごめんなさいこんなことを言って。あなたを戸惑わせるつもりはないのです。

ちょっと疲れているのかも…。変なメールを送ってごめんなさい。


XXX From,ミナコ



*****


「ミナコ……」

嬉しさ半分、悲しさ半分だった。やはり…彼の想いは届いていないのだ、ということを実感したアラン。

ミナコ…君が好きなんだ……あの時、テレビで言えば良かったな…。

「いやいや、駄目だろ、それじゃ……」


そう、直接言わないと。

そう呟くとアランは、スケジュールを見つめた。舞台が終わったら……なんとしても、ミナコに逢いに行こうと彼は考えた。

告白はきちんと、直接ミナコの目を見ながら言いたい。


「バレンタインのお礼もしないとな…あんな習慣があるなんて知らなかったんだ。ミナコ、許してくれるかなぁ…」

マネージャーから聞いた、日本には、“ホワイトデー”なるものが存在するという事実に、大層驚いたアランだった。

「アラン知らなかったんですか?そりゃあマズいでしょ……今からでも遅くないから、彼女に何か贈ったらどうですか?」

マネージャーはそう言われたけれど…どうせなら直接渡そう!
ミナコにふさわしいプレゼントは何かな……ブツブツと呟きながらアランは頭を悩ませる……と、ふいに鼻がムズムさせたアランは―――、


「クシュン!!……風呂上りだったんだ…」


バスローブに包まれたアラン身体は急激に冷えてきていた。このままじゃ風邪を引いてしまう。

「うん、取りあえず頭を乾かしてから……計画を練ろう!メールも返信しなきゃ……けどそれは明日にして……」



忙しくなってきたぞ、とガッツを入れるアラン。

ミナコ……“あなたを想っている人は沢山いる”だなんて…そんなことどうでもいい。
ミナコ一人に想ってもらえたら、アランは天にも昇るくらい嬉しいだろう。だって……、


「ミナコ……君に恋しちゃってるんだから…」


ニューヨークで桜を見られる場所も探さないといけないな。せっかくミナコが教えてくれた事だものね。
アランは桜の咲く場所ってどこだろう、などと考えながら、床に落ちたバスタオルを拾うと、バスルームへと戻ったのだった。


(H24,04,21)


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