ミナコから送られてきたバレンタインのプレゼントは、予想を遥かに超える物だった。
胸をときめかせながら包装紙を開けたアランは、年甲斐もなく歓声を上げた。
ハートの、大きなチョコレートが一つ。
そこには、可愛らしくメッセージが書いてあった。
大好き!!
ピンクのアイシングが可愛らしい。これはミナコの筆跡だろうか…ああ、なんだか凄くドキドキしてきた……。
「この大きなハートは…ミナコの気持ちと思っていいのかな?」
食べてしまうのが勿体無さすぎる。しばらく考えたアランは、決心した。
そうだ、これはこうしよう!
チョコの下に、もう一つ包みがあるのを発見した。
なんだろう…?けっこう大きいな……。不思議に思いながら包装紙を開けると、そこには……!
「マフラーだ…!」
渋めのチェック柄のマフラーだった。アランはさっそく首に巻いてみた。
「温かい……ミナコ…ありがとう……」
メッセージカードが入っていたので読んでみる。
To,Alan
喉の調子はどうですか?咳をしているようで心配です。
これを巻いて喉を保護してね。お大事に…そして、お誕生日おめでとう!!
xxx From,ミナコ
「ミナコ……君って人は………」
マフラーよりも何よりも、ミナコ……君のその存在や言葉、心遣いが、私の心を、そして身体を温かくしてくれるのに。
君は気が付いているのかな?
*****
『あー…ダルいよね……』
『もう…そんなに飲むからよ?』
『これが飲まずにいられっかっての!アイツめ……』
小夜が怒ってる。どうやら、旦那さんと喧嘩したみたいだ。彼女は二日酔いなのだった。
一緒に職場へと向かいながら、コンビニに寄って、二日酔いに効くドリンクを買う。そして小夜に飲ませるため、二人で会社の休憩室へと直行した。出社時間まで、まだ時間があったからである。
『う〜んまずい…もう一杯!!』
『そのギャグ古いってば……』
小夜の台詞に、ミナコが苦笑しながら返事をしたら、タイミングよく携帯が鳴った。
『あらん、アランからかしらん?』
『小夜……』
ぐでんとしながらそんな台詞を言う小夜に、ミナコは呆れた目を向けながら、携帯をチェックした。とたんに目を見開く。
『……アランからだ!!』
『うっそマジか!!』
小夜が二日酔いもなんのその、がばりと起き上がると携帯を覗き込む。そこに書かれていたメッセージは……
To,ミナコ
素敵なプレゼントありがとう!嬉しくて言葉には表せないよ。君がこれを選んでくれている間は、私のことを考えていてくれたと、うぬぼれてしまいそうだ…。
チョコはね…勿体無さすぎて食べられそうもなくて、大事に飾っておくことにしたよ。貧乏性だなんて言わないでくれよ?
マフラーは……フフ、今日の夜、ある番組に出るから時間があったらチェックしてみて!
Love you, From,Alan
http://XXXX,XXX,XXXX
*****
『行間からハートが飛び出しそうなメールだわね……』
『そ、そうかしら…』
ミナコの言葉に、小夜は笑ってきた。
『どっからどーみてもそうでしょ!ミナコ…あんたって本当に鈍いわねぇ…』
『…………』
『ま、オジサマの本気を確認するなら、その、下に書いてある番組だか何だかを見ればいいんでないの?』
小夜はそう言うと、メールに添付してあったアドレスを指差した。
『さてと……仕事してこよっと』
出口へと向かいながら、小夜は振り向くと言った。
『結果を報告したまえ!』
『馬鹿…』
*****
そして夜―――。
アランが教えてくれたアドレスにアクセスしてみたミナコは、目をこれでもかというほど見開いた。
アランが、マフラーをしているのだ。ミナコがプレゼントしたマフラーを、である。自分で選んでプレゼントをしたのだ、見間違えるはずがなかった。
それを身に付けたまま、インタビューに答えるアラン。
「素敵なマフラーですが…室内ではちょっと暑くないでしょうかね……」
司会者の言葉に、アランは微笑む。
「喉を傷めていてね、保護したいのと…それに……」
「それに…?」
「私の大好きな人がプレゼントしてくれた物だから、手放したくないんだよ。ずっと身に着けていたくてね……君にもそんな経験、ないかな?」
「だ、大好きな人?!それってどなたなんですか――」
司会者の慌てたような声に、観客の悲鳴が重なる。
アランは嬉しそうな顔をしつつ、囁くように言った。
「それは……ナイショさ…」
その後、会場は大混乱となってしまった。司会者が場を収集しようとあー、とかうーとか言っている。
アランはそんな光景を楽しそうに見つつ、ふいにカメラ目線を送ると、その手を唇に持っていき―――、
CHU☆
投げキッスをしてきた!
『う……あ……え、ええええ?!?!?!』
PCの前で、完全にフリーズするミナコ。
アランの言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
【私の大好きな人がプレゼントしてくれた物だから、手放したくないんだよ】
心臓がバクバクしてしまい破裂しそうだ。
顔を真っ赤にさせて、口をパクパクしながら、ミナコは思った。
アランって大胆すぎる!!と………。
(H24,03,01)
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