映画みたいな恋したい | ナノ

14 外人さんは積極的

7月にもなると、日本列島は梅雨も明け、一気に夏へと一直線となる。
今年は電力不足の関係で、省エネ対策も一段と力が入り、どこもかしこも暑くてたまらない。




『や〜〜あっついよネ』

あたし溶けそうだわ、と唸る友人を見て、ミナコは苦笑した。

『あっついって言うと益々暑くなるものでしょ。じっと我慢、我慢……』

『けどさぁ…暑いものは暑いじゃないのさ』

グチグチと言う小夜をせかしながら、ミナコは言った。


『ほら、そんなこと言ってないで。そろそろお昼休みも終わりよ?』

『がーん』

会社のビルへと戻りながら、ふと、携帯が震えるのを感じた。
あ、いつものメルマガかな、と思いながら携帯を確認したミナコは、小さく息をのむ。

『どったの?』

汗を拭きながらミナコを振り返った小夜は、彼女の頬が危険なほど真っ赤に染まっているのを見て驚いた。
もしや、熱中症ではと一瞬考えた小夜は、ミナコの次の一言に、叫び声をあげたのだった。




『アラン……今、日本にいるんだって…』

『うっそマジか!!!』




*****







To,ミナコ


ミナコ、元気にしてるかい?

舞台が無事終わって、少しの期間休暇を貰ったんだ。
次は映画の撮影が控えていて、アメリカで撮影になるのだけど……、どうしても君に逢いたくて、撮影に入る前に日本へ行ってみることにしたよ。

というか今、日本に着いたんだ。こっちもなかなか暑いね。ちょっとバテてしまいそうだ。

ミナコ、私は真剣だ。だから君もよく考えてほしいのだけど…。


もしも、私のことを少しでも想ってくれるのなら、今夜私の泊まっているホテルに来てくれないか?
君に逢いたいんだ。もう、メールでやり取りするだけでは、我慢できなくて…。

無理強いはしたくないんだ。だけど私は、君の気持ちが知りたい……。



君が来てくれることを信じていつまでも待っているよ……。


From,xxxAlan

Add:Tokyo xxxHotel…………



*****


『うわぁ……外人さんは積極的だねぇ』

『………私の目、おかしくなったのかな…』

『おかしくないよ。なんならもう一回読んだげようか?』

『お、お願いします……』


アランからの突然のメール、そしてその内容に動揺を隠しきれないミナコ。
メールを何度も読み返しては、そわそわするばかりだった。



『アランさぁ、職場の住所とか知ってたら、押しかけてたかもネ。情熱的だねぇ……やっぱ胸毛が生えてると情熱的なんだろうかねぇ?』

フムフム、という顔でもっともらしくとんでもないことを言う小夜に、ミナコは大声で否定した。

『む、胸毛は関係ないでしょ!』

それにアランはほとんど生えてないから!となんだかずれた返しをするミナコ。

『あ、そお?』

『どうしよう小夜…今夜よ?この時間じゃあ、家に戻っている時間なんてないよぉ』

モジモジするミナコに、小夜は言った。

『行くことには決めたわけね…』

『だ、って…………大好きなんだもの。からかわれているかもしれないことはわかってるわ。けど…』

『はいはい、大好きなんでしょ、わかってるって。けどねぇ……』

『けど?』

聞き返すミナコに、小夜は言った。

『からかうんだったら、酷く手が込んでるから……やっぱ本気っぽいよね。となると―――』

『となると?』

『やっぱこうするしかないでしょ!』

小夜はそう言うと、携帯を取り出して電話しだした。



『あ、あのですね……ミナコの体調がすぐれないんです……どうやら夏バテみたいで。午後は病欠しても?……ええ、私が後で休暇簿を出しますんで……はい、はい……それはOKです。では……』

『ちょっと!何やってるの…』

勝手に病欠にされたミナコが慌てだした。大嘘もいいところだ。
小夜は携帯で次の相手に電話をかける。そうしながらにやりと笑ってきた。

『シンデレラよ……魔法をかけてしんぜよう…』

『はぁ?』

訳が分からない、という顔をするミナコをほったらかし、小夜は勝手にどんどん準備を進めていく。


『あ、お久しぶりです〜。実は急ぎでお願いしたいお仕事があるんですけど…良いです?
私の親友を、世界一可愛らしくしてほしいの。頭のてっぺんからつま先まで……うん、そうそう。あと…そうねぇ……5時間くらいしかないみたい。うん…?ああ、ソッチはなんとかするんで。オーケー…じゃ、これから連れてくからお願いね!』


『つ、連れてくってどこよ?』

目を白黒させながら焦るミナコに、小夜は楽しそうに言った。


『エ・ス・テ♪最高の場所を知ってるのよね…私が結婚式前に通ったとこなんだけど。じゃ…行きましょ!』

『って…今から?!』

『あったり前!時は金なりってね。さ〜れっつら・ごー!!』

『うそぉ?!』




親友にずるずると引きずられながら、ミナコは思った。
この暑さで私の頭も小夜の頭も、ひょっとしたらアランの頭もおかしくなってしまったのかも…と。




(ドキドキするなぁ。ここが…日本……ミナコのいる国か…)

(アラン宛にメールしとこうっと。ぐふふ……小夜、頑張っちゃう☆)


(H24,07,19)


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