7月にもなると、日本列島は梅雨も明け、一気に夏へと一直線となる。
今年は電力不足の関係で、省エネ対策も一段と力が入り、どこもかしこも暑くてたまらない。
『や〜〜あっついよネ』
あたし溶けそうだわ、と唸る友人を見て、ミナコは苦笑した。
『あっついって言うと益々暑くなるものでしょ。じっと我慢、我慢……』
『けどさぁ…暑いものは暑いじゃないのさ』
グチグチと言う小夜をせかしながら、ミナコは言った。
『ほら、そんなこと言ってないで。そろそろお昼休みも終わりよ?』
『がーん』
会社のビルへと戻りながら、ふと、携帯が震えるのを感じた。
あ、いつものメルマガかな、と思いながら携帯を確認したミナコは、小さく息をのむ。
『どったの?』
汗を拭きながらミナコを振り返った小夜は、彼女の頬が危険なほど真っ赤に染まっているのを見て驚いた。
もしや、熱中症ではと一瞬考えた小夜は、ミナコの次の一言に、叫び声をあげたのだった。
『アラン……今、日本にいるんだって…』
『うっそマジか!!!』
*****
To,ミナコ
ミナコ、元気にしてるかい?
舞台が無事終わって、少しの期間休暇を貰ったんだ。
次は映画の撮影が控えていて、アメリカで撮影になるのだけど……、どうしても君に逢いたくて、撮影に入る前に日本へ行ってみることにしたよ。
というか今、日本に着いたんだ。こっちもなかなか暑いね。ちょっとバテてしまいそうだ。
ミナコ、私は真剣だ。だから君もよく考えてほしいのだけど…。
もしも、私のことを少しでも想ってくれるのなら、今夜私の泊まっているホテルに来てくれないか?
君に逢いたいんだ。もう、メールでやり取りするだけでは、我慢できなくて…。
無理強いはしたくないんだ。だけど私は、君の気持ちが知りたい……。
君が来てくれることを信じていつまでも待っているよ……。
From,xxxAlan
Add:Tokyo xxxHotel…………
*****
『うわぁ……外人さんは積極的だねぇ』
『………私の目、おかしくなったのかな…』
『おかしくないよ。なんならもう一回読んだげようか?』
『お、お願いします……』
アランからの突然のメール、そしてその内容に動揺を隠しきれないミナコ。
メールを何度も読み返しては、そわそわするばかりだった。
『アランさぁ、職場の住所とか知ってたら、押しかけてたかもネ。情熱的だねぇ……やっぱ胸毛が生えてると情熱的なんだろうかねぇ?』
フムフム、という顔でもっともらしくとんでもないことを言う小夜に、ミナコは大声で否定した。
『む、胸毛は関係ないでしょ!』
それにアランはほとんど生えてないから!となんだかずれた返しをするミナコ。
『あ、そお?』
『どうしよう小夜…今夜よ?この時間じゃあ、家に戻っている時間なんてないよぉ』
モジモジするミナコに、小夜は言った。
『行くことには決めたわけね…』
『だ、って…………大好きなんだもの。からかわれているかもしれないことはわかってるわ。けど…』
『はいはい、大好きなんでしょ、わかってるって。けどねぇ……』
『けど?』
聞き返すミナコに、小夜は言った。
『からかうんだったら、酷く手が込んでるから……やっぱ本気っぽいよね。となると―――』
『となると?』
『やっぱこうするしかないでしょ!』
小夜はそう言うと、携帯を取り出して電話しだした。
『あ、あのですね……ミナコの体調がすぐれないんです……どうやら夏バテみたいで。午後は病欠しても?……ええ、私が後で休暇簿を出しますんで……はい、はい……それはOKです。では……』
『ちょっと!何やってるの…』
勝手に病欠にされたミナコが慌てだした。大嘘もいいところだ。
小夜は携帯で次の相手に電話をかける。そうしながらにやりと笑ってきた。
『シンデレラよ……魔法をかけてしんぜよう…』
『はぁ?』
訳が分からない、という顔をするミナコをほったらかし、小夜は勝手にどんどん準備を進めていく。
『あ、お久しぶりです〜。実は急ぎでお願いしたいお仕事があるんですけど…良いです?
私の親友を、世界一可愛らしくしてほしいの。頭のてっぺんからつま先まで……うん、そうそう。あと…そうねぇ……5時間くらいしかないみたい。うん…?ああ、ソッチはなんとかするんで。オーケー…じゃ、これから連れてくからお願いね!』
『つ、連れてくってどこよ?』
目を白黒させながら焦るミナコに、小夜は楽しそうに言った。
『エ・ス・テ♪最高の場所を知ってるのよね…私が結婚式前に通ったとこなんだけど。じゃ…行きましょ!』
『って…今から?!』
『あったり前!時は金なりってね。さ〜れっつら・ごー!!』
『うそぉ?!』
親友にずるずると引きずられながら、ミナコは思った。
この暑さで私の頭も小夜の頭も、ひょっとしたらアランの頭もおかしくなってしまったのかも…と。
(ドキドキするなぁ。ここが…日本……ミナコのいる国か…)
(アラン宛にメールしとこうっと。ぐふふ……小夜、頑張っちゃう☆)
(H24,07,19)
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