今日はバレンタイン。
いつもなら、ミナコはこのイベントを冷ややかな目で見ている方だった。企業の策略には乗らない性質でもあった彼女が覗いているもの、それは……。
『可愛いなぁ…これなんか良さそう』
『アランに?』
『な…ッ…そんなんじゃないって……』
友人の小夜の突っ込みに、タジタジになるミナコ。
『な〜に言ってんだか。そんな顔しときながら、違うなんて言わせないわよ?』
そう言いながら、小夜はミナコの頬を突っついてきた。
『そんな顔って…どんな顔?』
ミナコの恥ずかしそうな顔を見ながら、小夜は言った。
『私は恋してますって顔!』
『もう!ひどいよからかうなんて……』
『あはっ……ごめんごめん!これなんか、どう?』
苦笑しつつ、ショウケースを覗き込んだ二人だった。
*****
『変じゃないかなぁ…やりすぎ?ううん、これくらいは大丈夫よね?』
ひとりごとをブツブツ言いながら、買ってきた商品をラッピングするミナコ。丁寧に、丁寧に愛を込めるのを忘れない。
何度も清書し直したカードも添える。
『よし、っと!あとは…メール…だけど……これくらい、良いよね……?』
誰に言っているのかわからない言い訳をすると、彼女はえいっとメールを送信した。
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1472_w.gif)
To,Alan
こんにちはアランさん。お元気でしょうか?ミナコです。
今日はバレンタインデーですよね?あ、そちらでは1日早いのかしら…?
ちょっと早いけれど、私からバレンタインのプレゼントです。メールでは、気持ちを伝えられるか不安ですが、貴方にどうしても伝えたくて、気持ちだけでもと思い、メールしてしまいました。
大好きなアラン……これからも、ずっと、ずっと貴方のファンです!!
お仕事頑張ってください。また、メールしますね♪
XXX From,ミナコ
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1478_w.gif)
P,S
遅れてしまいますが、バレンタインのプレゼントをそちらに送りました。劇場宛てにしたのですが……届くかしら?
*****
アランは、朝の運動をしていた。
朝といっても、もう昼に近かったが……この運動は、いつでも時間のある時にするに限るのである。
「16……ん…ッ……17……は…っ……18……19……あと1回…ッ」
息を切らしながらアランがしている運動は――腹筋運動。本気でダイエットを開始したアランだった。
(このお腹をなんとかしないと…ミナコに笑われてしまう!)
汗だくになりながら、スクワット、腕立て、ランニングをするアラン。
腹筋運動は最後の仕上げだった。
「20!やったぁ!!」
ヘロヘロになりながら、床に寝転がるアラン。乱れた息を整えていると、ピピピ、とアラームが鳴った。アランはとっさに時計をみる――時計は10時を示していた。
「もしかして――」
乱れた息もなんのその、素早い動作で起き上がると、携帯にダッシュするアラン。そのまま、ベッドへとダイブした彼は、メールをチェックする。
「やった、ミナコからだ♪どれどれ……?」
ウキウキしながらメールを開いたアランは、次の瞬間、叫び声を上げたのだった。
「オーマイゴッド!ミナコ………」
アランの頬が赤いのは、運動のせいではないミナコ。のメールに興奮しているためである。
「私だって君のこと……愛してる……って言ってもミナコには聞こえないんだよな…」
携帯を握りしめながらゴロゴロとベッドを転げまわるアラン。とても壮年期の男性とは思えない行動であった。
もどかしい気持ちが、アランをそのような行動に走らせるのだ。
「日本は遠いな……」
アランはそうつぶやくと、もう一度ミナコからのメールを見た。
ミナコからのメールは、保護フォルダにすぐに入れて、何度も読み返す彼である。
彼女を思いながら……。
「プレゼント……劇場宛て……か。楽しみだな……ってそれって!!」
大変だ、どうしよう!!
そう叫び、髪を振り乱して興奮するアラン。
プレゼントは嬉しい。それが気になる女性から貰えるものであるのならなおさらである。
だが、アランにとってそのプレゼントはそれ以上の価値があった。
「ミナコの自宅の住所をゲットできる〜〜〜!」
こうしちゃいられない!!
いてもたってもいられないアランは、速攻でシャワーを浴びると、劇場へと向かったのだった。
そう、アランは深く考えていなかったのだ。
日本から遥か遠いニューヨークまでプレゼントが届くには、数日以上がかかることを。
その後数日間、劇場に張り付くようにいたアランは、共演者に不審がられるのであった……。
(H24,2,14)
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