映画みたいな恋したい | ナノ

10 脈アリですか?

『で、仕事が何も手に付かなかった、っていうワケ?』

『う、うん…そうなの……』

『だ〜〜〜ッ!アンタらしいっていうか何て言うか…』

『はは……』


友人である小夜が呆れた顔でミナコを見つめた。

ここは、職場から近めな場所にある喫茶店である。
仕事をなんとかこなしたミナコが泣きつき、友人である小夜と、この喫茶店で待ち合わせをしたのだった。


『Love you……ねぇ…』

『じょーだんだと思う…?』

不安そうなミナコの声に、小夜は唸りながらコーヒーにミルクを足した。

『普通なら、遊ばれてるんじゃないかって思うけど…』

『………や、やっぱりそうだよね。私なんか、アランさんにとっては遊びなのよね――』

一瞬でどよーんとした雰囲気を漂わせるミナコに、小夜は慌てた。

『待ちなさいってば!話は最後まで聞きなさいよぉ。私は、“普通なら”って言ったわよ?』

『それって…どういう意味?』

訳が分からないという顔をするミナコに、小夜は笑った。

『“普通じゃない”でしょ貴方達の出逢いは』

『………そうかしら』

信じられない、という顔をするミナコ。
こういう謙虚さが、外人には好ましく映るのかもしれないと、小夜はこっそり考えた。
それに彼女は可愛らしい。女である自分から見ても、そう思う。
英国紳士は十分に落とせる、いや落としたと踏んだ小夜は言った。

『Love you、って言葉を使ったってことは脈アリだと思って良いと思うし、何しろメルアドを教えてくれただけじゃなくて返信までしてくれたってことと、文面から考えると――』

『か、考えると…?』

『うん!脈があると踏んでいいわね、絶対』

『……………なんか、眩暈がしてきた』

真っ赤な顔で両頬を押さえるミナコを見て、小夜が笑う。

『笑わないでよぉ〜!』

『ごめんごめん…つい、さ…』


謝りながら小夜は思った。
今のミナコの表情をアランが見たのなら、確実に彼をまた恋に落とせるだろう、と。




*****





『う〜ん…これで…どうだろう……』

携帯とにらめっこすること数時間。時刻は0時になろうとしていた。
ミナコの周囲には、辞書やらなんやらが散乱している。奮発して新しい辞書まで買ってしまったミナコだった。

『英語…もっと勉強しておけば良かったなぁ。さすがに、友達にも“添削して”って頼めないしね』

恥ずかしいもんね、と独り言を言いまくり、頬を真っ赤に染めるミナコ。
覚悟を決めると送信ボタンを押した。

『えいっ!あ〜〜…恥ずかしい…アランさん、読んでくれるかしら……』




*****




遅いブランチを食べていると、携帯が鳴った。

最近は何処に行くにも携帯を手放さないアランである。大好きな食事よりもメールが気になるアランは、食べていたクロワッサンを放り投げると携帯に飛びついた。

「ミナコからだ……やった!」

嬉しそうに笑いながら、メールをチェックするアラン。
今はホテルの一室に一人っきりでいるため、周囲を気にしなくて良いこともあり、アランははしゃいた。

「どれどれ……?」


ベットに腹ばいになったアランは、ドキドキ、わくわくしながらメールを開いた―――。






To, Alan


メールありがとうございます。


舞台、とても好評のようですね。私も、まるで自分のことのように嬉しく思います。
そして先日、ラジオ番組に出演されていましたね。声が疲れているようで、心配です。体調はいかがですか?
舞台をされている間はお休みがないでしょうから…お体には十分気を付けてくださいね。

今、ニューヨークは11時頃でしょうか。
少しお休みされているお時間でしょうか?それとも…お食事中かしら?
食べ過ぎないように気を付けてくださいね?最近、少しふっくらされているように感じて…あっ!勿論、ふっくらされていようが、なんだろうが、私はいつまでも貴方のファンですけれど!

私は今、お風呂上りで、ワインを飲みつつ辞書を片手にメールを打っている所です。

こうしていると、貴方とバーで話したあの日が懐かしい…。日常に戻ってしまうと、あの日が夢だったのかもしれないと思ってしまいます。

いつか、日本に来て下さるとのこと。その時はまた一緒にお酒を飲みたいです。私がおっちょこちょいになっても、きっと貴方なら、また助けて下さるでしょうから!

長くなってしまいました…。
遠く離れていますが、私はいつまでも貴方を応援しています。
ご迷惑でなければ、またメールさせてくださいね。


xxx From,ミナコ



「ミナコ……」

アランは、メールの最後の行を凝視した。


(xxx…ってことは…ことは…、そう、思ってもいいのかい?)


ミナコにキスをした時のことを思い出すアラン。
あの時は、額だったし…彼女からもらったキスも…頬だった。


(し、しかも最後にハートの絵文字が…!これは…脈アリだと思っても良いだろうな!!)


「やったぁ!!」

ベットの上を、年甲斐もなくゴロゴロ転げまわるアラン。服がよれようが気にしていない彼だった。

ふと、ブランチを眺めるアランは眉を顰めた。そして、自分の腹部を見たアランは、こっそりと決意を固めた。


「舞台が全部終わったら、ミナコに逢いに行こう!早く捕まえないと、私のモノじゃなくなってしまうかもしれないし。それにはまず――ダイエットだ……」

アランは立ち上がると、食べかけのクロワッサンを数秒見つめ、皿の奥へと追いやった。

「今はサラダと果物だけにしよう……」

そう呟きながら、サラダへと手をのばすアランだった。



(H24,2,5)


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