映画みたいな恋したい | ナノ

7 おっちょこちょいな君

『ぬわんですってぇ〜〜〜!!それ、ホントなの!! 』

リサは信じられない!という顔をするとミナコに詰め寄った。

ミナコはジリジリと後ずさりながら答える。

『う、うん、ホント…みたい……』

『実感、無い訳?』

リサの言葉にミナコはうつむいた。



彼のあの、微笑み。
声は、とっても低くて甘い。
そうして、あの唇の感触は――――


『ち、ちょっとどーしたのミナコ!顔、真っ赤だよ?』

『なななんでもない〜!』


急いで否定しながら、ミナコはあの時のことを頭から追い出そうと必死になった。
あの、甘いひと時を―――。




*****


「だから、お嬢さんには早すぎると言ったろう?年寄りの忠告は聞くものだ」

アランは苦笑しながら、ミナコの身体を支えた。
ミナコはフラフラしながらも、楽しそうに笑っていた。
バーでのやり取りで、例のカクテルを飲んだミナコはすっかり酔っ払ってしまい、今アランは、部屋までミナコをエスコートしているのだった。


「年寄りって…アランはそんなんじゃないでしょ〜?」

バランスを崩しそうになるミナコを慌てて支えながら、アランは答える。

「私は十分な年寄りだよ?今だって…飲みすぎたのか眠くて堪らないよ…」

「舞台で疲れてるんですよね…お疲れ様です〜」

フフ、と笑いながらアランに抱きつくミナコ。素面でこんなことが出来るはずがない。
ミナコは完全に酔っ払っていた。また、である。

アランはそんなミナコに苦笑い。

「まったく…とんでもないお転婆娘だね、君は…。さ、君の部屋に着いたよ。ちゃんとパジャマに着替えて寝るんだよ?」

ほら、カードキーはここだ、とアランはミナコをしゃんと立たせると、部屋のキーをかざす。

「今日はカードを振らなくてもちゃんと部屋に入れるよ?ミナコ…」

クスクス笑いながら部屋のドアを開ける。ミナコは恥ずかしそうに笑うとアランに言った。

「お休みなさい…アラン」

「ああ、お休み、可愛いお転婆娘さん」

「あの…あのね?」

ミナコの瞳が潤んでいた。それを見たアランの胸はドキリとときめく。


(若い子を相手に、私は何を考えている…?)


胸のときめきを抑えながら、アランは余裕な表情を保つと言った。

「なんだい?ミナコ…」

「お休みのキス…してほしい、です……」


その言葉を聞いたアランの表情が固まった。


(今のは聞き間違いだろうか。キス、と聞こえたが…?)


「ミナコ、君は今すごく酔ってる……」

必死で平静を装いつつ、なんとか諦めさせようとするアラン。キスなんてとんでもない。それだけで自分を抑えられる自信が、彼にはなかったのだ。

ああ、それなのにミナコは言ってしまった。

「酔ってます…あなたに、すっごく酔ってます……」

そう言うとミナコはアランに寄りかかり、抱きついてきた。
ほのかに香る香水は、控え目な薔薇の香りで…アランは、その魅惑的な香りと相まって、若いミナコの魅力にクラクラする。



気になる女性を見つけて、居場所を突き止め、バーで待っていたはいいが、まさか初めて話した日の、しかもこんなに酔っている状態の彼女に、そんなことをしても良いものか…。

頭の中で善のアランと悪のアランが戦いを繰り広げる。


悪のアランが囁く。

((してくれと言うのだから、してやればいいじゃないか。その先に進めるならそれはそれで好都合。そうなりたかったんだからありがたく頂戴したらどうだい?))



善のアランが忠告する。

((やめた方がいい。もっとゆっくり、知り合っていかないと。身体が目当てだと思われかねないぞ?今は我慢だ我慢…))




「アラン…ダメ、ですか…?」


(だ、ダメってそんな可愛い顔で言わないでくれ…)



迷いに迷ったアランが取った行動は………、




ちゅっ





「………おでこ…」


私の気も知らないで…。そう考えながら、アランは苦笑する。
不服そうなミナコに向かって、アランは囁いた。


「この続きはまた今度……さ、紳士が狼になる前に、ベッドへ行きなさい」


ポンポンと頭をあやされて、ミナコはむーっとした顔をした後、アランに向かって――、




ちゅっ



「お休みなさい!」

「あ、ちょっと待って―――」


慌てて引き留めようとするアランを放置し、ミナコはドアを閉めてしまった。



後には廊下にぽつーんとたたずむ一人の紳士が残された。頬を押さえた状態で。


「まったく…どこまでおっちょこちょいなんだか…!」



(私の頬にキスをして、ドアをバタン、か…)



面白い子だと、アランは思った。
本当はあの後、連絡先を聞こうと思ったのに。


(酔っていたとはいえ…やっぱりあれは素なんだろうな。どうやら私は、とても面白い子を見つけてしまったようだ)


アランはクスクスと笑いながら、廊下を後にしたのだった――。




*****



『で、Mr,リックマンの連絡先は?』

リサに突っ込まれてミナコは一瞬で真っ赤な顔を真っ青にした。

『まさか聞いてないとか?あそこまで話し込んで、それはないでしょ!』

『あ…あははは……』

『……………はぁ、馬鹿ねぇ』

『ご、ごめんなさぃ……』


リサの心底呆れた顔に、小さくなるミナコ。

こんな奇跡、一生無いかもしれないのに…と言われながらチェックアウトをするミナコは、しおしおになっていた。
慌てて勇気を振り絞り、聞いていたアランが泊まっていた部屋へ行ってみたが、彼はもう居なかったのだった。


(あれって夢だったのかしら……)


ぼーっとしているミナコに、フロントマネージャーが封筒を渡してきた。

「Ms,おっちょこちょい…いえ、Ms,シマタニ、素敵な紳士からこちらを預かっております……」

おっちょこちょいと呼ばれたミナコは目を見開き、次に頬を真っ赤に染めると、封筒を受け取った。

(え?え?どういうこと…?)

頭が混乱してしまってうまく働いてくれない。
震える手で封筒を開ける。便箋に書かれていた文字、それは――




Dear Ms. Pert fellow


Let me tell your e-mail address. Waiting for a reply e-mail from you.



XXXXX0221@hotmail.co.uk

From Alan Rickman



(親愛なるMs,おっちょこちょいへ…私のメールアドレスを伝えておこう……君からのメールの返信を待っている……ってこれって!!)


『アランのメルアドだ!!きゃーうそぉ?!』

『なになに?どーしたのミナコ、落ち着いて…』

『むりぃ!!どどどどどうしようリサぁ!!やばい泣く…!!』

『笑うか叫ぶか泣くかどれかにしなさい!』

『うわぁん〜嬉しいよぉ〜〜〜!!』


便箋を握りしめながら、リサに抱きつくミナコ。


『あれっきりじゃないんだ!これからは、アランにラブ・メールを送っちゃうもんね〜〜!!』

『わかった…わかったから落ち着きなさいって…恥ずかしいから…ねっ?』

リサの言葉に、ミナコは笑いながら断言した。

『無理!!』


(H24,1,26)


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