教授×生徒。
我輩が校長室から戻ると、部屋の中には奇怪なモノが置いてあった。
「……なんだこれは」
我輩の言葉に、膨らんだ布の中がモコモコと動き、中から出てきたのは――、
「ぷはーっ、やっぱ暑い……無理ぃ!」
「お前…我輩の部屋で何をしている!」
杖を突き付けてやろうと行動する前に、レイはニコリと笑いかけてくる。
「あ、きょーじゅだ!残念……脅かそうと思ったのに」
「脅かすために、このような奇怪なモノを我輩の部屋に置いたのか」
我輩は内心ドキドキしつつ呆れた。この笑顔に騙されてはいけない。この生徒のせいで、昨年のハロウィンは……我輩らしからぬ失態をしたのでな…。
「奇怪って……これは、日本ではとってもポピュラーな文化なんですけど…」
「文化?」
また怪しげな日本薀蓄を出してくるつもりか?レイは日本人のハーフだが、日本文化はデタラメが多いのだ。
「そうですよぅ!これは、『コタツ』といって、リビングに置いて暖をとるモノです!」
本当か?と疑う我輩は手を引かれ、『コタツ』とやらに押し込まれる。
「何をする―――温かい」
「そーでしょ〜、こうやって、ね」
オレンジのような果実を取り出したレイは、その一つを我輩に押し付けた。
「これは『ミカン』ですよ。間違ってもオレンジではないです。うーん…あとは…」
「あとは?」
「猫がいれば完璧なんだけど……あっ、そーだ!」
何をするつもりなのか、見当もつかぬが……もしや……も・し・や
「フィルチからノリスを借りてきたら――」
「却下」
「じゃあ、マクゴナガル教授に変身してもらって―――」
「貴様は馬鹿か」
「えー!じゃあ…じゃあ……仕方ないから、クルックシャンス借りてくる!」
「いらん」
我輩の私室に、猫が入るなどごめんだ。
しかもマクゴナガルがお前のために変身するわけがないだろう。第一、彼女は今、自宅に戻っているはずだ。
我輩は溜息を付いた。口を尖らせておもしろくない、という顔をするレイのご機嫌をとらねば、な。
「我輩がいれば良いだろう」
「そうだけど…でも、これだったら、『日本の正月』が完璧にならないんだもん……」
仕方あるまい。これはしたくなかったが…。
「そんなに唇を尖らせたら、そのまま固まるぞ」
「それはヤです」
「我輩も嫌だな。そうなったら……レイ、お前にもうキス出来ぬではないか」
「!」
驚きの顔から、一気に赤面するレイ。この『コタツ』の暖房のように真っ赤だった。
我輩は肩を震わせる。どうにも我慢がならぬ。
「くっくっく……心配するな。我輩はお前の口がどうなろうと、こうやって――」
ちゅ。
「変わらぬ愛を誓おう…」
「な…っ……きょうじゅ!キャラ違ってる!!」
慌てるレイが可愛くてしょうがない。
我輩は平然とした顔で『ミカン』の皮をむきながら言った。
「新年のサプライズだ」
(H25,1,2)
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※コタツがホグワーツで使えたのは、ヒゲの長い校長の仕業です。
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