※教授×生徒。“05,不意打ち”の続き。
その、視線が気になる……。
大勢の生徒を教えている教師という立場上、我輩に視線を飛ばしてくる者は多い。
それは、教師としての自分を見るものであって、そこに特別な感情は無いはずである。そう、今まではそうだった。
だが……、あの事があってから、彼女から向けられる視線には、特別な感情が感じられるのだ。
気のせいだと思いたかった。
自分がただ、自意識過剰なだけだと思いたかった。
何故なら、我輩はその娘に対して特別な感情を持っているからだ。
しかも、その感情を抑えきれぬあまり、決してしてはいけないことをしてしまった。
彼女に触れる……などということを。
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朝の挨拶の時、ふと見上げてきた彼女の頭の上に、植物の葉が付いていた。
他の生徒であるならば、意識などせずそのままにするのに、我輩は触れてしまったのだ。
そう、彼女に触れてみたかった。
決して、この想いを伝えることは出来ないが……せめてものチャンスは、無にしたくなかったのだ。
過去に意識のない彼女を抱き上げたり、治療を施したことはあったが、その時は、無我夢中だった。反芻するような記憶ではない。第一、彼女に対して失礼であろう。
だから―――少しだけ。
ほんの、少しだけだ。
彼女の温もりを感じたかった。思い出が欲しかった。
この、我輩が………。
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そんなリスクを負ったからなのか、それから先、彼女が我輩を見る視線には、“何か”が感じられる。
それが何なのか……正直、初めてのことゆえ我輩にも理解しかねる。
だが、不愉快ではない。かえって………心地良く感じている。
気が付くと、あの澄んだ瞳が我輩を見つめている。
そこには、嫌悪や恐れは感じられない。不愉快さはなく、心地良いその視線……。
すると、我輩もいつの間にか彼女を見つめ返してしまうのだ。そんな日は、夜になっても眠れない日が続く。
このような目にあうのは初めてのことゆえ、どうしたら良いのか……皆目見当もつかん。
だが、やめさせようとは思わぬし、やめてほしくないと思ってしまうのは……ただ、視線だけでも彼女のことを独り占めできているのではないかという、男としての醜い感情からか?
そんなことを独り思い悩みながら、今夜も更けていくのだ。君の視線に焦がれながら……。
(H25,07,15)
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