あの不思議な夢をみてから、しばらく経った頃…。
何故か手に持っていたジギタリスの花は今寮の部屋の机に飾られてある。もう、少し枯れかけてきたけど。勉強をしながら眺める。
…やっぱり夢じゃなかったんだろうか。
でも教授に直接あの夢について話しをするのは恥ずかしいよ。教授とキス…もしちゃったし。
教授ったら積極的だったな。しかも逢えて嬉しいとまで言ってくれた。
私は切ない溜め息をついた。やっぱり信じられない。
あれってばただの私の願望なんじゃ?
今日は魔法薬学の授業がある日だ。皆はうへえ〜という顔をしていたけど私はあの夢をみてから始めて教授の授業があるのだ。なんかドキドキする。
教授を見たら、あの時のことを思い出しちゃったりして。
例によってスネイプ教授がローブを翻してやってきた。
「本日は“気つけ薬”を調合してもらう…教科書154ページを開きたまえ」
教授はそう言うと授業を始めた。
この授業ではいつも、まず薬草の知識などを学習してから調合方法の説明、そして調合に入るのだ。
「本日のキーとなる薬草はこれだ…」
そう言って教授が皆に見せた薬草は…あれはジギタリス!
ま、まさかね。偶然ですよきっと。
「この薬草は以前の授業でも出てきたはず。解るものはいるかね?」
教授がそう言うと、何人かの生徒が手を挙げた。私はもちろん手を挙げる…はずがない。動揺しちゃってさ。
やーただの偶然だってば。私は教授の顔が見られなくって、教科書をじっと見つめた。きっと誰かに当ててくれるだろう。手を挙げている生徒の中にはハーマイオニーもいた。
教授はツカツカと足音をさせて生徒の席の周りを歩いているようだった。
…私は教科書に目を落としているのでわからないけど。…んん?何か足音が近くなってくるような…。
「また教科書を読んでいるのかね。人の話を聞けと言ったろう」
うええ?また私ですかい?横を見ると教授がニヤリと笑っている。
「…余裕ですなあ。勿論答えられるのでしょうな?」
と聞いてきた。私は答える為に立ち上がった。
「この花はジギタリスといって、ゴマノハグサ科の2年草で多年草です。全体にジギトキシン、ジゴキシンなどの強心配糖体を含み、これらばジギタリスの葉を温風感想したものを原料としていましたが、マグル界では科学的に合成もされています。別名はキツネノテブクロとも言います」
そして貴方に初めて貰った花でもありますよ、夢の中ですけどね。私は心の中で付け加えた。
教授が目を見開いている…どうしたのかな?
「完璧ですな。…諸君、ペンがとまっているぞ。書き写したまえ」
その後授業は滞りなく終わったのであった……後で残るように言われちゃったけど。
*****
「お話とは何でしょう?」
「……お前も、なのか?」
「意味が、わかりませんが…」
「……“深淵”」
「え?それって夢に出てきた…」
「!やはりそうか!」
「ってことはセブルスも?」
「…うむ、どうやら同じ夢を見ていたらしい」
「ジギタリスの花、僕の部屋にまだ飾ってあります…少し枯れかけてるけど」
「…我輩の部屋にも、花びらが落ちていたのでな。大事にとって置いてある」
「不思議ですね…二人で同じ夢を見るなんて…」
「…そうだな。しかし夢、なのか?」
「それは、わかりませんが…」
「………」
「セブルス?あの時の最後に言った言葉、よく聞こえなかったんです。何て言ったんですか?」
「……それは…」
「それは?」
「……次の授業に遅れる。急ぎたまえ」
「ええ?」
「…減点されたいのかね?」
「…うう、わかりましたよう」
私はそう言うと、教室を後にした。やっぱり夢じゃなかったんだ。じゃああのキスも現実のこと…??私は次の授業に向かいながらも、赤くなったり、青くなったりを一人で繰り返してしまったのでした。
*****
二人で同じ夢を見ていたとは……。なんという不思議だろうか。
我輩は部屋に戻ると、あの時枕元に落ちていた花びらを見つめた…。捨てるには忍びない甘い夢の残滓は、今しおりになっている。
「我輩も…お前が大好きだ」
花びらを眺めながらそうポツリとつぶやくと我輩は苦笑した。
それは絶対に言えない言葉…。
我輩は甘い夢を思い出し酔いしれたのだった。
それはそれは不思議な、夢の物語。
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