今年も、2月14日がやってくる。
「レイ様、今年も贈られるのですね…!!」
ミアが興奮したような顔で私に言ってきた。私は苦笑しながら、チョコレートの塊を、ミアに見せる。
「えっと…今年は、ちょっと変えてみようと思って…」
「?」
ミアのハテナ顔に笑いつつ、私は言った。とっておきのバレンタイン・プランを。
*****
「せぶるすー」
後ろから脅かしちゃお!
そう思って教授の背後から忍び寄った私は、教授に抱きつこうとした。そしたらさ、
「フ…レイよ、バレバレだぞ」
だって。ちぇっ。
「どーしてわかったのぉ?」
面白くなーい。声が、顔がそう言っていたんだと思う。教授は肩を震わせて笑うと言ってきた。
「匂い、だ」
「匂い?」
私、匂うのかしら……。そんな!昨日ちゃんとお風呂に入ったのに!!
一生懸命身体を見回しては鼻をクンクンさせる私を見て、教授はクスリと笑うと、私は捕まえられてしまった。教授の、腕の中に。
「甘い香りがする…」
あの立派な鼻でクンクンされた。首筋やら脇の下やら……くすぐったいよぉ…。
「ちょ、ちょっとくすぐったいってばぁ……あ…ンッ」
思わず変な喘ぎ声が出てしまう。教授のスケベ!!身体をしっかりと捕えられてしまっているから、逃げられそうもない。
甘く喘ぎだした私をみて、教授は笑ってる。
「蕩けそうだな……」
「なに、が……ッ?」
教授の愛撫(っていうんだろうか)に、言葉にならない私。
「いや………」
低く、甘い……まるで濃厚なチョコレートみたいな声で教授が囁く。文字通り蕩けそうになっているのは私なので、教授は私のことを言ったのかもしれない。
教授は私の喉に軽くキスをすると、頭を撫でてくる。私はとても心地よくて……ふわふわする気持ちのまま、教授に凭れかかった。
「…レイ?」
「んー……なぁに?セブルス」
教授の声がいつもより身体に響く。密着してるからだよね。
「我輩に用があったのではないのかね?」
教授の言葉に、私は思い出した。本来の、目的を。
「えっと…用っていうかなんていうか…」
「なんていうか…?」
「あの…そのぅ……」
「なんだ?」
「あの…あのね…?」
「レイ……そんなにモジモジばかりしていたら……無理やり言わすぞ?」
教授の目が妖しく光った。
まっずいそれは大変!私は慌てて教授に言うことにする。なんか…改めて言うとなると緊張しちゃってさ。いくら恋人同士とはいえ、緊張するんですよこういう事は。
「そ、そんなことしないで!言うってばぁ…」
「クックッ……さぁ、レイ……」
「んと……今日は、バレンタインだから…これ…セブルスに!」
一緒に飲もうよ!と言って差し出したマグカップを、反射的に受け取った教授は目が点になっていた。
「なんだこれは…」
「チョコレートドリンクですよ?セブルス…飲んだことないの?」
私の言葉に教授は言ってきた。
「飲んだことはあるが…コレはなんだ?」
教授が不思議な顔をしているのは、ドリンクに浮いているあるモノだったりする。
教授…もしかして知らない……?
「それはマシュマロですよ?セブルス、食べたことないの?」
「いや、そんなことはないが…何故飲み物の中にそんなものを入れるのだ…?」
え〜嘘!外人さんの方がこうやってよく食べるってミアに聞いたのに。教授は知らないのだろうか。
「こうやって食べる方法もあるんですよ?」
私の言葉を聞き、教授の眉間には盛大なシワが。わわ、どうしちゃったのぉ〜?
「……どうやって?」
それからしばらくの間、チョコレートマシュマロの飲み方について、教授に質問されまくる私がいたのでした。
「飲むときに邪魔にならんのかね?」
「そのためにスプーンが付いてるでしょ。それを使ってこうやって――」
「ほう、なるほど。だが一緒にカップに入れる理由がわからん」
「だってこうやって食べたほうがおいしいんだもん」
「最初にマシュマロを口に入れてからドリンクを飲めばよいではないか」
「……そういう方法もアリだけど、こうやってドリンクにマシュマロを浮かせると可愛いし、チョコの熱でマシュマロが溶けてくるから、そこを飲んでもおいしいでしょ?それにこうやって――」
「なるほど、スプーンを使ってマシュマロを沈めるのか。しかし――」
「最後まで聞いて!こうやって押し込んで、マシュマロを早く溶かしたり、スプーンですくって食べてもいいし、食べ方の決まりなんて無いの!!」
「決まりは無いのかね?」
「無いってば」
「そうか………」
手作りのマシュマロをあつあつのチョコレートドリンクに落として、二人寄り添いながら迎えるバレンタイン。
マシュマロの食べ方を知らない教授に少し胸が痛む。こういうことは、普通自分の親とか兄弟とか、友人とかから習っているかと思うんだけど。でもそんなこと関係ないもんね。だって…食べ方はこれから習えばいいもの。
そんな普通の幸せを、さりげなくだけど沢山…沢山教えてあげたい。
愛するあなたに……。
「どうかしたかね?じっと見つめて……」
不思議そうな教授に、私は微笑む。
「なんでもない!セブルスがすっごく格好良いから、見てただけ……」
「な…っ……ば…っ………」
「ほら…もっとマシュマロ入れる?」
「………ああ」
可愛いハート型のマシュマロをカップに一つ、ポトリと落とす。
一粒一粒に愛を込めて作ったマシュマロなんだよ?
もっともっと、私を好きになってくれるようにおまじないをかけながら作ったんだから。
溶けたマシュマロをドリンクと一緒に飲んだ教授が、カップを見つめながら呟いた。
「これは…なかなか…」
「でしょ〜?」
二人でじゃれ合いながら飲んだチョコレートドリンクは、どんなお菓子よりも甘くて、そして美味しかったのでした。
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