ある冬の日の夕暮れ。

外は雪が降り積もり、ある生徒は寒そうに、肩を竦めて歩き、またある生徒は、頬を真っ赤に染め、楽しそうに雪合戦に興じている。


そんな外の喧騒とは無縁な、地下室のある一室。
パチパチと薪の爆ぜる音に、時折重なるようにパラリ、と本のめくれる音。

温かな部屋に、穏やかな時が流れる。

では、この部屋の住人のあるひと時を覗いてみよう。なに、大丈夫。ここからは私達が見ていることには気が付かないはずだ。
おそらく………。




*****




私は、穏やかな気持ちで本から顔を上げた。視線の先には、私の愛しい人、教授がいる。
真剣な表情で、羊皮紙に何かを書き込んでいる。今彼は、レポートの採点中なのだ。


男の人が仕事をしている姿って、格好良いよね。教授ってば、絵になるんだもん。ただ、そこにいるだけで。


羽ペンが優雅に動き、文字を作り出す。美しいその文字の内容は、残念ながら良い言葉じゃなかったけれど。
教授の採点は辛口だからね。


私はソファーに頬杖をつくと、教授をじっと見つめた。


髪の毛が時々視界を遮るので、教授は時々髪をかきあげる仕草をしたりする。そのしぐさがとてもセクシーだったりするんだけど、アレは絶対に無意識だろうなぁ。

教授のその長い指先が、時々、文章をなぞるしぐさをすることがある。
なんてことはないそのしぐさ。だけど、教授がすると優雅なしぐさになるから不思議だ。
意識なんてしてないだろうけど、なんだろう…持って生まれたモノなのかなぁ。

私がマネしても、もったいぶって見えるだけだろうけど。




ねぇ、素敵な素敵な教授様。今日も格好良いですね。
私、貴方にメロメロなんです。
読んでいた本の内容が、どうでも良くなっちゃうくらい、貴方に夢中なんです。


……言ってみたいなぁ……言ったら、どんな顔するかな…?


私はドキドキしながら、教授に話かけた。


「ねぇ、セブルス……」

「…なんだ?」

「あの…あのね?」

「うむ…なんだね?」

「あのね……………やっぱりなんでもないっ」

「?なんだね…言いかけて途中で止めるとは……」

「なんでもないの……」

「そうか?………そろそろ、休憩にするか。どれ、紅茶でも淹れよう―――」

「あっ、僕が淹れるねっ!セブルスは休んでて〜」





*****




レポートの採点をしていたら、強い視線を感じた。
おそらくこの視線の元は、我輩の恋人。構ってやっておらぬゆえ、我輩に無言の圧力をかけているのだろうか…。

あともう少しで終わるのだが。少し、ピッチを上げるとするか。我輩がそう思っていたら、突然、声をかけられた。


話しかけて止めるとは、どうしたのであろう。我輩は、恋人を見つめた。
するとその頬は、ほんのりと赤く染まって……なんとも愛らしい表情をしているではないか。

何故そんな顔をする?
どうしてそんなに、我輩を煽る?

含みを持たせたその会話は、甘い雰囲気を、この部屋にもたらせた。

自分が淹れると言って、席を立った恋人の背中に視線をやりながら、我輩は頬杖をつく。


レポートの残りはあとわずか。そして、夜はまだまだこれから。
お茶を飲みながら、これから先、あの会話の続きをするのも良いですな。


我輩は羊皮紙を取り出した。しもべ妖精に伝えねば。夕食をこの部屋に運ぶようにと。



今宵は可愛らしい恋人と、この部屋で愛を語らうのも悪くない………。


ふくろうを呼び寄せ、手紙を届けるように指示する。

立ち上がり、杖を振った。部屋に鍵をかけたのだ。これから先、邪魔が入られるのは興ざめだ。恋人との甘い時間は、誰にも邪魔をさせぬ。
暖炉を確認し、薪を追加する。これで夜まで持つであろう。これほど部屋を暖かくしておけば、風邪を引くことはないであろうからな。服を着ていなくてもな…。


では、参ろうか。あの言葉の続きを、なんとしてもお前から聞き出してやろう…。どんな手を使っても。
我輩は思わずニヤリと笑うと、ソファーに腰をおろした。

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