「また、伸びてない……」


寮の部屋の柱に付けた印を見て、私は溜息一つ。

だって、全然成長しないんだもの、この身体。今、成長期のはずでしょ?このくらいの年齢の男の子だったら、1年に10p伸びたっておかしくはないはずなのに。

去年、ちょびっと伸びただけで止まってる、とか……ショックだ。

「毎日牛乳飲んで、運動して、小魚食べて……出来ること全てしてるはずなのに、なんで伸びないかなぁ…」

私はそう呟くと、部屋を後にした。朝ごはん食べに行かなくちゃ。




朝食の後、授業のために移動しているときになんの気なしに皆を盗み見る。

ハリーは、私より頭半分くらい背が高い。
ハーマイオニーも同じくらい。
そしてロンは……私よりも頭1個以上くらい背が高い。羨ましい。ウィーズリー家は皆、背が高いもんね。

「ロンはいいよなぁ…」

「?僕の何がいいのさ?」

ぼそっと呟いた言葉を、ロンは聞き逃さなかったみたい。驚いてるみたいだった。
だって…ねぇ?背が高いのは実際魅力的でしょ?

「僕、ウィーズリー家に生まれたかった……」

そうしたら背なんかもっと高くってこう、すらっとしてたんだろうなぁ。こんなちんちくりんじゃなくて。

はぁ、と溜息をまた付いた私を見て、ハリー達は顔を見合わせていた。だって、だってさぁ…これじゃ駄目なんだもん。出来ないんだもん……。




*****




放課後、教授のお部屋に行った後も、気になるのはそのことばかり。

そういえば昔、雑誌の広告に載ってたな。背が高くなる機械とか。懸垂みたいなやつだったけど。ああいうのって本当に効果あるのかな?

「おい」

それとも、薬とかないのかな?そういうの雑誌で見たことあるかも。

「おい、」

そこまで考えて、私は急に気が付いた。
そっか!ここって魔法界だった。魔法を使うって手があったじゃんか。

「魔法を使えば良いんだ!僕って馬鹿だなぁ」

「魔法で何をするのだね?」

一人で納得していたら、教授に突っ込まれた。あ、教授、呆れた顔してる。

「先程から声をかけておるのにウンウン唸りおって…。一体、何を悩んでいるのだ?」

「唸ってた?僕が?」

そんなことしてたかしら私。
すると、私の言葉に教授は苦笑して言った。

「随分と深刻そうにな。魔法を使う、とはどんな魔法を使うのだ?」

そう言いながら教授は私の側にやってきた。近づけば近づくほど教授の背の高さが解って私は彼を見上げてしまう形になってしまう。
私は立ち上がると教授の隣に立った。そうして教授を見上げる。彼は不思議そうな顔をしていた。

「どうした?急に立ち上がって…」

「うん、測ってるの」

「測っている、とは何を?」

「セブルスと僕の身長差」

やっぱり相当な差があるみたい。30p以上は離れてる。伸び〜る呪文なんてあるのかなぁ。

「ねぇ、セブルス。聞いても良い?」

「ああ」

「背が高くなる魔法ってある?」

期待に胸を膨らませながら私は言った。だって歯が伸びる魔法とかあるんだから絶対あるよね?あるって言ってよ、教授!!
目をキラキラさせて私は教授の答えを待った。

「そんなものはない」

「嘘!!」

がーん。そんな馬鹿な。魔法って万能じゃないのぉ?!

ショックを受けて固まっていたら教授は溜息を付いてきた。

「レイ、お前は勘違いしているようだが、魔法は万能ではない。何でも出来ると思ったら大間違いですぞ?どうしても背が高くなりたければ、ポリジュースでも飲むのだな。もっともその場合は、自分ではなく誰か別の人物に成り替わるということになるだろうが――」

「そんなの駄目!!絶対に嫌!!」

成り替わっちゃ意味がないの。それにそんなの絶対に嫌。たとえ自分がするとしても嫌だった。
涙目で嫌がる私に、教授は訝しげな顔をしてきた。

「何故、背が高くなりたがる必要がある?別に今のままでも不都合はあるまい」

んもう、教授ってば何も解ってないんだから。
私は溜息を付くと実行に移すことにした。背が高くなりたい理由をね。


ちゅっ。


「な!…急に何をするのだ…ッ」

「だーかーらー…これが理由なの」

「……背伸びしてキスしたことが、かね?」

「キスじゃないでしょ!僕の背丈じゃ、精一杯背伸びしてもあなたの顎までしか届かないんだから…」

しかも若干ぷるぷるしながらだよ?これじゃあ教授にキス出来ないじゃんか。第一全くもってロマンチックじゃない。

私がそう言ったら、教授は吹き出して笑い出した。あ、あれってムセてるよね絶対に。

「なんでそんなに笑うのぉ?!セブルスのいじわる……」

人が真剣に悩んでるのにぃ。映画みたいなキスをしてみたいって思うのは、間違ってることなの?
せめて元の身体だったら…もうちょっとは背が高いから何とかなるのに…なぁ…。

シュンとしてたら、教授は私を抱きしめてきた。


「我輩はお前の身長を気にしたことはないが、な」

「ホントに?」

「ああ。それに、ですな……解決策もある」

「どんな?」

私の問いかけに教授は言った。

「合図を決めれば良い」

「合図?」

「さよう。キスをしたい時は……そうですな、我輩の服の袖を引っ張ってみてはどうかね?」

「袖を、引っ張ればいいの?」

「そうだ。さっそく、試してみよう。ほら……」

教授はそう囁くと、右手を差し出してきた。
い、いざやれって言われると恥ずかしいですねホントに。緊張するし…ッ

内心ドキドキしながら教授の右手の袖を引っ張った。すると教授は頭を屈めてくれた。あ、そーいうことですか。
私は教授の頭に両手を廻すと、キスをした。


「ん……っ………ぁ………ッ…」


教授ってばドコに手を入れてるんですか!!そんな…シャツの中に手を入れちゃ駄目だって…ッ

気が付くと私の身体はソファーに横たえられていた。服なんてかなりはだけちゃってる。なんでこんなことになってんの?


「身長差を気にするなどお前らしいな。だが……そんなことは問題ではないぞ?キスをしたければあのようにしてくれれば良いし、仮に背伸びしてキスをしてくれたら――」

教授はそう甘く囁きながら、私の脇に手を這わせてきた。

「あ……んっ……そこ…やだ…ぁ……」

「こうやってお前の隙もつけるし、な……。我輩としては背伸びしてくれた方が良いですな」

「ああんっ……ちょっと……んんっ…まって…ッ」

「その提案は却下だ。レイからねだられたら、差し上げなければ……我輩の愛を、たっぷりと、な……」

「そこまでしてなんて言ってな―――きゃ…んっ……ぁんっ…きょーじゅの―――!!!」



その後の言葉は飲み込まれてしまった。教授の唇の中に、ね――――。

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